香港とシンガポール、資産はどちらに置くべきか——20万人が離れ、20万人が流入した2大拠点の使い分け
この記事でわかること
- 香港が「成長のお金」、シンガポールが「お金を守る」と表現される理由
- 2020〜2022年の3年間に約20万人が香港を離れた背景
- 3,000億円超の資産が押収されたマネロン事件後、シンガポールで起きた規制強化の中身
- 2023〜2025年に約20万人が香港へ流入し、活況を取り戻した経緯
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アジアで資産を持つとき、まず候補に挙がるのが香港とシンガポールです。ただ、「香港は国際的な金融ハブとしては終わったのではないか」「シンガポールは規制が厳しくなったらしい」といった印象だけが先に立ち、2つの都市の違いを整理できていない方もいるのではないでしょうか。
今回お話を伺ったのは、Nippon Wealth PB の松島代表です。2009年から2021年まで12年間を香港で過ごし、2021年からはシンガポールに拠点を置いています。両方の都市を内側から見てきた立場から、金融拠点としての性格の違い、この数年で起きた人とお金の移動、そして使い分けの考え方を伺いました(収録は2026年6月)。
香港とシンガポールは、金融拠点として何が違うのか?
松島氏がまず挙げたのは、金融都市としての「性格」の違いです。香港は、中国と切り離すことができないマーケットです。中国は金融の面では今も閉じられた市場であり、そこにアクセスしようとすれば香港経由が最も典型的な方法になります。つまり香港は、中国と海外投資家をつなぐゲートウェイです。中国本土企業のIPO(新規上場)も数多く扱われ、街そのものも、商売をするために人が集まるペースの速い場所だといいます。
この性格は株価指数にも表れています。ハンセン指数の構成銘柄には、テンセントやアリババといったIT企業、中国の大手金融機関、中国に営業基盤を持つ外資系銀行、BYDに代表される製造業が並びます。松島氏の言葉を借りれば「中国色たっぷり」の顔ぶれです。
一方のシンガポールは、安定性と中立性が色濃いマーケットです。中華系が中心ではあるものの多民族国家で、国としても全方位外交をとり、東南アジアでは飛び抜けた先進国です。安定しているということは、将来の予測可能性が高いということでもあります。そのため、資産を安全に預けられる先という位置づけになる、と松島氏は説明します。ルールを重視する気質も特徴です。株価指数の構成も香港とは対照的で、3大銀行のほか、配当を多く払うREITやインフラ関連など、配当重視の銘柄が中心だといいます。
松島氏はこの違いを、香港は「成長のお金」、シンガポールは「お金を守る」という色、と言い表しました。
なぜ今、香港とシンガポールがあらためて比較されているのか?
背景には、この数年で人とお金が2つの都市の間を大きく行き来したことがあります。
松島氏が香港にいたのは2009年から2021年です。その間に民主化運動があり、国家安全法で管理体制が強化され、さらにコロナ禍が続きました。松島氏自身が2021年にシンガポールへ移ったきっかけのひとつも、安心して資産を預ける先として香港を推しにくいイメージになったことだったと振り返ります。
同じ動きをした人は多く、松島氏によれば、2020年から2022年の3年間に香港を離れた人は約20万人にのぼります。外国人がかなり含まれ、そのうち数万人単位がシンガポールに移ったと言われています。プライベートバンカー、投資銀行の関係者、企業幹部、ファミリーオフィスに関わる人、富裕層など、金融に関係する人が多かったそうです。香港にいた日本人のプライベートバンカーも、ほぼこの時期にシンガポールへ移りました。
流れ込んだ人とお金で、シンガポール側は「ホクホク状態」になりました。ただ、良いことばかりではありません。2023年には大きなマネーロンダリング事件が起き、3,000億円を超える規模の資産が押収されました。これを受けて、シンガポールの金融界全体で規制が強化されています。加えて、人とお金が一度に移ったことで不動産価格や物価が高騰し、住みづらくなったといいます。
「揺れた振り子はまた戻ってくる」。松島氏はその後の動きをこう表現します。2023年から2025年にかけて、今度は約20万人が香港に入りました。香港側も、ファミリーオフィスの誘致、デジタル資産・暗号資産のビジネスをしやすくする政策、ゴールド取引のハブづくりに力を入れています。中国企業のIPOも引き続き強く、足元では活況を取り戻しているというのが松島氏の見方です。
アジアの富裕層向けの金融は、香港とシンガポールが2大拠点です。コロナ以降は、とくに金融の人が香港からシンガポールへ抜け、シンガポールだけが頭一つ抜けたような状態になっていました。それがいま、香港に再び約20万人が流れ込み、活気を取り戻しています。最近、この2都市の対比を世の中でもよく目にするようになったと感じています。
これからの香港とシンガポールでは、何が変わっていくのか?
香港では中国本土との一体化が、シンガポールでは行き過ぎた規制の見直しが進んでいる、というのが松島氏の見方です。
まず香港です。松島氏は2026年3月、3年ぶりに香港を訪れ、現地に住む人たちと話をしました。そこで受けたのは、香港の中国本土への依存度が高まり、境目がますます曖昧になっているという印象です。特別行政区という枠組みは残っているものの、人もお金も行き来が活発になっているといいます。
象徴的なのが車での越境です。かつて隣の深センへ車で行くには、中国本土側のナンバープレートも高いお金を出して取得し、香港側のものと両方を付ける必要がありました。現在は、マカオ方面にできた大きな橋を渡ると、マカオの隣の珠海に香港側のナンバープレートだけで入れます。松島氏によれば、香港のガソリン価格は1リットル600円台で「世界一高い」。それが珠海まで行けば3分の1の価格で買え、簡単な日用品でも半額になるため、毎週末のように車で珠海へ通う人がいるそうです。
こうした一体化は、見方によっては香港のアイデンティティが失われていくことでもあります。ただ松島氏は、香港の競争力という点では強くなる可能性を秘めている、と捉えています。
次にシンガポールです。マネーロンダリング事件後の規制強化で、AML(マネーロンダリング対策)やKYC(顧客確認・本人確認)が厳しくなり、口座開設が難しくなることが実際に起きています。もともとルールを重んじる文化の場所なので、一度厳しくしたものを緩めるのは簡単ではありません。それでも、日本の金融庁にあたる当局が最近、プライベートバンクの口座開設に時間がかかりすぎていると公にコメントし、短くするよう銀行に指示したといいます。高騰していた不動産価格や物価も一服しており、松島氏自身、2025年のアパート更新では賃料が少し下がっていたそうです。
香港は家賃も非常に高いと聞きます。珠海までは車で1時間半ほどと、それなりに距離はありますが、ガソリンが3分の1になるのであれば、行ったほうが合理的です。いま珠海には「香港特需」のようなものがあるのかもしれません。中国のダイナミックさを感じるお話でした。
日本人は、香港とシンガポールをどう使い分ければよいのか?
松島氏の答えは、「どっちがいいの?」ではなく、どう利用したいか、どう活用したいかから考える、というものです。
香港にメリットを感じやすいのは、中国ビジネスに強い興味がある人や、中国の成長性に賭けたいと考えている人です。そうした志向の人には「香港のほうが肌に合う」と松島氏は言います。
対照的に、シンガポールは長期的に使える場所です。著しく成長しなくてもよいので確実に、たとえば次の代に渡したい家族の資産や、財産の保全、預けておくことでリスクを軽減したいお金。そうしたまとまった資金の置き場所は「シンガポールが得意」だといいます。
2つの都市は、互いをライバルとして強く意識しています。松島氏はこの競争関係を、マーケットを利用する投資家にとって「とても大きなプラス」だと捉えており、この関係は将来にわたっても変わらないだろうと述べています。ただし性格の違いはあるので、それを分かったうえで使ったほうがいい、というのが松島氏の助言です。
どちらが正解ということではなく、それぞれ性質が異なる、というのが私の理解です。いまは国際分散投資として、お金の拠点を日本だけでなく、さまざまな場所に置く方が増えています。大切なのは、どこに置くのが正解かを探すことではなく、それぞれの目的を明確にし、それに応じた適切な場所でお金を置き、運用することだと思います。
インタビューまとめ 対談を経営の視点から振り返ります。
今回のインタビュー動画はいかがでしたか。ここからは、M&Aスタジオ代表・野﨑繁裕(中小企業診断士)が対談を振り返り、明日の経営に活かせるポイントを整理します。
このインタビューから持ち帰る3つの学び
- 「どこが正解か」ではなく「何のために使うか」を先に決めると、選ぶべき場所は絞られる
- 一方に人とお金が集中すれば、規制強化や物価高騰という反動が起き、振り子はやがて戻る
- 拠点同士の競争は利用者の利益になる。優劣ではなく性格の違いとして理解して使い分ける
進行中のM&Aの条件や、
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