AM47局のうち44局がFM転換へ——68年続くラジオ大阪、初の女性社長が進める「広告だけに頼らない」局づくり

  • 公開日2026年10月08日

この記事でわかること

  • 全国のAMラジオ47局のうち44局がFM転換へ向かう背景
  • 新しい株主を迎えた局で、入社30数年のプロパー社員が社長を引き受けた理由
  • 歴史の長い組織で「気持ち」を変えるための進め方
  • 7時間半の生放送を約20分・3言語のポッドキャストにする狙い
  • 新入社員時代の街頭募金で得た「一人でも聞いてくれるなら」という確信の中身

インタビュー動画

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広告の需要はネットへ移り、AMの設備は古くなって更新の負担が重くなっている。大阪で68年続くラジオ大阪は、放送業界の外から新しい株主を迎え、経営体制を改めました。その舵取りを引き受けたのが、同局で初めての女性社長となった上野慶子氏です。入社から30数年のプロパー社員は、何を変え、何を変えないと決めたのか。M&Aスタジオ代表の野﨑が聞いた内容を、課題・判断・取り組みの順に整理します。

なぜAMラジオ局は「広告だけの商売」を続けにくくなっているのか?

上野社長がまず挙げたのは、広告の変化です。ネットの環境が育ち、ネット広告が活況になったことで需要がネットへ移り、「広告だけの商売」は非常に難しくなっているといいます。民間放送は、営業活動でスポンサーを得て、地域の文化や地域の人に役立つ放送を届ける事業です。その広告収入が下がる傾向にあります。

同時に重くのしかかるのが設備です。AMの設備は大きく、高額なものが多いうえに古くなってきており、収入が下がる中でも維持と更新を続けなければなりません。野﨑が動画内で紹介した数字では、全国のAMラジオ47局のうち44局が、2028年に向けてFMへの転換を進めようとしています。

上野社長によれば、大阪や東京などの都市部ではAMが聞き取りづらくなったため、AM局はFMの周波数も割り当てられています。FMの設備はまだ新しく、業界には「できればFMになれたら」という思いがあるそうです。ただし、移行は簡単ではありません。AMの免許は、定められたエリアに電波を届ける前提で与えられており、そのエリアのリスナーに届ける義務があります。FMの設備は同じ届け方を前提にしておらず、地理的な条件や電波の環境も都市部と地方で異なるためです。

上野社長は放送免許を、「既得権益というよりも国民の財産」を任されているものだと捉えています。災害が起これば災害報道に切り替える使命もあります。収入は減り、設備の負担は増え、届ける責任は変わらない。ラジオ大阪が向き合っているのは、この3つが同時に進む局面です。

新しい株主を迎えた局で、なぜプロパー社員が社長を引き受けたのか?

ラジオ大阪は、放送業界の外から新しい株主を迎え、役員構成を見直しました。上野氏が同局初の女性社長に就任したのは2025年8月です。

新体制の役割分担は明確でした。新株主の中心となった人物が会長に就き、投資家として複数の事業を手がけてきた経験から、外の新しい風を持ち込む。ラジオの営業畑を歩んできた役員は、東京の人脈を生かして営業を担う。そして上野社長は、入社から30数年のプロパー社員として局の歴史や対外的な付き合いを知る立場から、大阪の本社で基礎の部分を維持し、日常を回す。

上野社長は、「やれるかどうか」という不安は正直あったと振り返ります。それでも、それぞれが一番得意なことをきちんとやり、協力して一番いい成果を出すという考え方に納得し、本社で土台を守ることが自分の役割だと理解して引き受けました。

野﨑によれば、上野社長は自身の役割を「結節点」という言葉で表現しています。新しく加わった、広告やネット配信に強い人たちと、これまでのラジオ大阪。その間に立つ人でありたい、という意味です。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

M&Aの仕事をしていて思うのは、会社の体制が変わるときに一番大事なのは、中の人の不安が分かる人がそこにいるかどうかだ、ということです。上野社長は、まさにその役を引き受けられたのだと思います。

歴史の長い組織は、何から変えていけばよいのか?

就任後、上野社長が一番の命題に据えたのは「変わらなきゃいけない」ということでした。ラジオ大阪が今後も広告の世界で生き延びていくには変化が要る。そのために自分は、これまでになかった新しいものを引き受ける一番の窓口になるべきだと考えています。

難しいのは、仕組みよりも気持ちの部分です。68年続く局には長い歴史があり、社員は誇りを持って仕事をしてきました。「これまでこうだった」という感覚を、「ここはこう変えてもいいじゃないか」「もっとオープンにしようよ」へ切り替える。上野社長は、ここを変えるのが一番難しいと話します。

進め方は2つあります。1つは、社員の話を聞きながら背中を押すこと。新しい株主は放送そのものを尊重したうえで新しい挑戦を後押ししており、実際にやると決めた場面で、みんなの話を聞きつつ背中を押すことが一番大事だといいます。もう1つは、日々の仕事の中で行動を変えること。上野社長はそれを、一新するための一歩と位置づけています。

変える一方で、土台にあるのがラジオ大阪らしさです。上野社長は、社員から出た「商店街」という表現を紹介しました。おっちゃんやおばちゃんがいて、子どもが走っていて、お好み焼き屋もラーメン屋もある。面白いことがあったら何でもやってみよう、というところがある局だといいます。

流れて消える放送を、どうやって「残る資産」に変えるのか?

変化の具体的な一手として動画内で紹介されたのが、ポッドキャスト「Dailyラジオ大阪」です。収録時点で6月の本配信開始を控えていた取り組みで、1日7時間半の生放送から、いい話や笑える小ネタを約20分にまとめて配信します。パーソナリティは、公式マスコットをAIキャラクターにした「弁天おび氏」と、AIアシスタントの「ハル」。大阪弁、英語、中国語の3言語で届けます。

ラジオの音声は、radikoでも放送と同じ内容が流れ、聞き逃し配信もあります。上野社長によれば、今回の狙いはそれとはまったく別の形で、番組の魅力を圧縮して世の中に出すことにあります。ラジオには古いイメージがあるものの、やっている中身は「まさに今」であり面白い。それを、ラジオに触れたことのない人に知ってもらうための取り組みです。

多言語にしたのは、中国からの観光客や大阪に住む人が、自分の言語で大阪の話題を聞けるようにするためです。AIの活用に慣れた新しい株主側の人たちが「放送がこうなる」と実際に作って見せ、そこにラジオ大阪が元々持っている放送を乗せた形だといいます。今後どう発展させるかは「手探り」だとしつつ、上野社長は、想像できない広がりが生まれる可能性があると語りました。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

私が一番面白いと思ったのは、上野社長がこの取り組みを、流れて消えてしまう放送から「保存の効く資産としてのコンテンツ」へと位置づけておられる点です。M&Aの仕事から見ると、会社が使う資産そのものを少しずつ変えていく、すごく根っこの話だと思います。

体制が変わっても、変えないと決めているものは何か?

上野社長は大分県の出身です。中学生の頃、雑誌の付録のラジオを組み立て、布団の中で、大阪のCMが流れる深夜ラジオを雑音混じりに聞いていました。大学進学で大阪へ出て、1990年に大阪放送(現・ラジオ大阪)へ入社します。

仕事の核になっているのは、新入社員時代の街頭募金です。目の不自由な方のために音の出る信号機を贈るチャリティ番組「ラジオ・チャリティ・ミュージックソン」で、寒い街頭に立って募金を呼びかけていたとき、サラリーマン風の男性が大きな金額を入れ、いつもこの活動をしてくれてありがとう、という趣旨のお礼を伝えてくれました。仕事の1つとしてこなしていた募金が、誰かの暮らしを本当に助けている。その重さを感じた瞬間だったといいます。ラジオ大阪が近畿圏に寄贈した音の出る信号機は、300基を超えています。

このとき上野社長が得たのが、「一人でも聞いてくださっているなら絶対にやる価値がある」という確信です。以来、放送でもイベントでも、その先に楽しみにしている人がいるという感覚が自分を支えてきたと話します。

放送の姿勢についても考えは一貫しています。電波は国民から預かったものであり、放送では「AもBも出す」ことで、聞く人に選択肢の材料を渡す。フェイクは流さない。一方で、放送局の側が心配しすぎて、本当に必要なものを届けられているのかという自省もあると上野社長は話します。そして言葉は、人を励ますことも傷つけることもあるからこそ、電波に乗せて届ける側には責任がある。体制や届け方が変わっても、この考え方でやっていきたいというのが上野社長の立場です。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

この話は、YouTubeでメディアをやっている私にも重く響きました。私たちの動画は何万回も再生されるようなものではありませんが、毎回見てくださる方がいて、北海道や沖縄から問い合わせをいただき、会いに来てくださることもあります。カメラの向こう側には必ず視聴者の方がいて、役に立てることがある。だからこそ責任も強く感じます。

インタビューを振り返る野﨑繁裕 インタビュー
まとめ
対談を経営の視点から振り返ります。

今回のインタビュー動画はいかがでしたか。ここからは、M&Aスタジオ代表・野﨑繁裕(中小企業診断士)が対談を振り返り、明日の経営に活かせるポイントを整理します。

このインタビューから持ち帰る3つの学び

  • 体制が変わるときは、新しい力と既存の組織の間に立つ役割を、最初に決めておく
  • 流れて消えていく仕事は、形を変えて残せば資産として積み上がる
  • 届け方を変えるときほど、誰のための仕事かを言葉にして持ち続ける

今回お話を伺って強く残ったのは、変えるものと変えないものの線引きが、はっきりしていたことです。広告の需要がネットへ移り、AMの設備の維持と更新が重くなる中で、ラジオ大阪は放送業界の外から株主を迎え、体制を改めました。その中で上野社長は、新しい力とこれまでのラジオ大阪の間に立つ役割を引き受けておられます。会社の体制が変わるとき、中の人の不安が分かる人がそこにいるかどうか。M&Aの現場で私がいつも気にしている点が、ここでは人の配置として形になっていました。

もう1つは、資産の捉え方です。放送は流れた瞬間に消えていきます。それを約20分に圧縮し、3つの言語で残る形にして届ける取り組みは、番組を1つ増やす話にとどまらず、会社が使う資産そのものを少しずつ入れ替えていく話だと受け止めました。

そして、その土台にあるのが、新入社員の頃に街頭で受け取ったお礼の言葉でした。上野社長は「一人でも聞いてくださっているなら絶対にやる価値がある」と話されています。届け方は変わっても、誰に向けて仕事をしているのかは変わらない。経営体制が変わる局面ほど、この一点を言葉にできる人がいることの意味は大きいと感じました。

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