移住先で口座を開くだけでは足りない——金融資産10億円以上でなくても考えたい、海外移住前の「お金の置き場」

  • 公開日2026年10月08日

この記事でわかること

  • 移住先の口座だけに資産を集めないほうがよい理由
  • 「お財布代わりの口座」と「資産を置く口座」を分ける考え方
  • 金融資産10億円以上でなくても海外口座を検討できる理由
  • 居住していなくても口座を開けるシンガポールが選ばれる背景
  • 月に1回の報告と外部委託で透明性を保つEAM・ファンドの仕組みの中身

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海外移住を考えるとき、多くの人は「どこに住むか」から決めていく。国が決まれば、次はビザ、住居、子どもの学校。一方でお金の管理は「行った先で口座を開けばいい」で済ませてしまいがちだ。シンガポールを拠点に、EAM(外部資産運用者)として資産運用を支援するNippon Wealth PBの松島氏は、住む場所と同じように「お金をどこに置くか」を考えたほうがよいと指摘する。アメリカに通算約9年、香港に約12年、シンガポールに5年。海外で暮らしてきた松島氏に、M&Aスタジオ代表の野﨑繁裕が、移住前に考えておきたいお金の置き場所を聞いた。

移住先で口座を開けば、お金の管理は十分なのか?

シンガポールで、移住を検討する人や海外在住者からお金の相談を受けている松島氏によると、こうした相談は増える傾向にあるという。移住を考える人は、行き先、ビザ、住居、子どもの学校にかなりの時間を使う。ところがお金の管理については、あまり深く考えずに「まず行ってみる」人が多い印象だと松島氏は話す。たとえばタイに移るなら、タイの銀行に口座を開く。生活のために必要な一歩ではあるが、松島氏が投げかけるのは「それでいいのかな」という問いだ。

松島氏自身、アメリカに赴任した当時は、現地に着いてから口座を開いた。日本にいるうちから海外口座を用意しておくという発想が、今ほど一般的ではなかったという。

移住先の口座だけでは足りないと考える理由は二つある。一つは、移住先の金融機関に、自分のまとまった資産をすべて移すのかという問題だ。特定の国の金融機関の良し悪しではなく、資産の中心をどこに置くのかを考えたほうがよいという指摘である。もう一つは、海外に出たあと、日本に残した口座が使いにくくなる場合があることだ。

そこで松島氏が示すのが、口座を役割で分ける考え方だ。移住先には日々の支払いに使う「お財布代わりの口座」を持つ。それとは別に、まとまった資産をしっかり管理できる場所を確保する。こうしておけば、移住先がさらに変わっても、資産を置いておく場所は変わらない。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

行く国が決まり、お子さんの教育環境も決まり、口座は行ってから開けばいい。これが一般的な方の思考プロセスだと思います。私自身も、銀行口座はその国に住んでいないと開けないものだと思っていました。

ずっと日本にいる人が、あえて海外に口座を持つのは珍しいことです。ただお話を伺って、その国に住んでいなくても海外に銀行口座を開くことはできるのだと分かりました。

海外口座を持つのは、超富裕層だけなのか?

海外に口座を持つ人が増えている背景として、シンガポールで資産運用を支援する松島氏は三つの動機を挙げる。自国の通貨や住んでいる場所の通貨だけに偏らせず、分散しておきたいというリスク管理。住む場所がさらに変わっても、口座を柔軟に維持しておきたいという考え。そして、海外不動産から生まれる資金の管理など、国際的に資産を管理したいというニーズだ。

対談では、こうしたニーズは日本国内では金融資産10億円以上の人が対象になる、という話が出た。松島氏は、そうした層にメリットがあることを認めたうえで、そうでなければ海外口座を開けないわけではないと説明する。分散した結果、海外に置く金額がそこまで大きくならなくても「分散すること自体に意味がある」。「スーパーリッチじゃないと」意味がない、そもそも開けないという受け止め方は、誤解だという。野﨑はこれを、数億円ほどの規模の人が地域分散のために海外口座を開くのは比較的一般的だ、と受け止めた。

実際に動いているのはどんな人か。松島氏が最近よく聞くのは、子どもを海外の学校に通わせるための移住だ。マレーシアのクアラルンプールには200を超えるインターナショナルスクールがあり、日本人の子どももかなりの人数が通っているという。母親と子どもが現地で暮らす形が典型で、学費と生活費の支払いが必ず発生する。現地に居住するのであれば、その間は日本の非居住者として資産を運用しようと考える人も出てくる。そのとき、マレーシアの金融機関で運用するのか、隣国のシンガポールに口座を開くのか、という選択になる。

もう一つは、日本で事業を売却し、まとまった資金を受け取る人だ。入ってきた資金をすべて国内で運用するのかを考える人はかなり多い印象で、金額が大きいほど、一部を安定した場所に置いておこうという発想になるという。M&Aをきっかけに家族で海外に出る人、海外で不動産を買う人、移住まではせずセカンドホームを確保して滞在時間を少しずつ分けていく人もいる。

なぜ資産を置く場所としてシンガポールが選ばれるのか?

松島氏は、まとまった資産を置くための口座という用途には、自身が拠点とするシンガポールは「正直 向いている」と話す。前提として、シンガポールは居住していない人でも口座を開けるマーケットの一つだ。もともと多様な国籍の人が暮らし、人の行き来にも開かれた国で、さまざまな場所に住む人がそこで金融取引をしてきた。日本人でもインドネシア人でもマレーシア人でも、訪れて口座を開くことができるという。

理由として松島氏が挙げるのは安定性だ。不確実性の高い時代にあって、シンガポールは予測可能性が高く、透明性の確保にも力を入れている。その土台の上で金融サービスを充実させ、世界的な金融ハブを目指してきた結果、ハブとしての成熟度が高い。これが松島氏の見方である。

日本に住む日本人でも口座は開けるのか。野﨑の問いに、松島氏は「できます」と答えた。開設しやすい金融機関とそうでない機関、開設後に使いやすい機関とそうでない機関の差はあり、本人の使い方にもよる。ただ、国連の制裁対象国のような例を除けば、居住地を理由に断られることはほとんどないという。

注意したいのは税金だ。松島氏によれば、税金との関係は本人がどこに住むかによる。日本に住んだままシンガポールに口座を開いて運用すれば、納税義務は日本で生じる。シンガポールの金融機関が日本のような源泉徴収をすることはなく、あとは顧客がそれぞれの事情に合わせて対応することになるという。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

地政学の面でも考えさせられます。最近の中東情勢を見ても、シンガポールの安全性は際立っていると感じます。日本は周囲を複数の国に囲まれた島国で、台湾有事のような話もあります。

お金の置き場所を日本に集中させておくこと自体が、安全なのか、安全ではないのか。シンガポールに限らず複数の国に分けることも含めて、ある程度資産額の大きい方は、真剣に考えてもよいのではないでしょうか。

海外に資産を預けるとき、何を確認すれば安心できるのか?

松島氏の会社は、自社で商品をつくって販売する立場ではなく、EAM(外部資産運用者)という立場にある。仕組みはこうだ。顧客はシンガポールにあるプライベートバンクや証券会社に、自分名義の口座を開いて資産を預ける。松島氏の会社は顧客と金融機関の間に入り、売買注文の取り次ぎを担って運用を手伝う。資産の預け先はあくまで金融機関であり、運用対象も債券や株式といった伝統的なものが基本になる。

会社が始まって5年。顧客ごとの個別口座の運用支援を核としつつ、現在は自社で設定したファンドも一つ運用している。

海外のファンドと聞くと不安を感じる人は多い。松島氏が説明したのは、運用と管理を分ける体制だ。ファンドの資金を受け入れる口座は、運用会社である同社の口座とは完全に切り離され、ファンドの資産だけが入っている。資金の管理は外部のファンド・アドミニストレーターに委託しており、月に1回の会計報告にあたる業務もそちらが担う。運用する立場であっても、自分たちだけで勝手に資金を動かすことはできない。

野﨑はこれを、2社が分かれて関与することで透明性が保たれる仕組みだと整理した。書面や運用体制を確認すれば、どこに何を預けているのかは明確になる。

なお、同社がすべてに対応できるわけではないとも松島氏は話す。EAMとして手伝える場合は手伝い、自社ファンドが顧客の志向に合えば紹介し、そうでなければシンガポールの金融機関とのネットワークの中から活用できそうなものを紹介する、という進め方だ。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

海外ファンドと聞くだけで不安になる方は、結構多いと思います。国内でも詐欺の話は多く、著名な方まで引っかかってしまうことがあります。

投資をするときに大事なのは、リスクが特定できることです。何にお金を入れているのかを、客観的に確認できること。これがすごく大事だと思っています。銀行預金であっても、預け入れた銀行がそのお金を貸して運用しているわけですから、ある意味では同じことです。私の前職の地方銀行でもそうでした。

インタビューを振り返る野﨑繁裕 インタビュー
まとめ
対談を経営の視点から振り返ります。

今回のインタビュー動画はいかがでしたか。ここからは、M&Aスタジオ代表・野﨑繁裕(中小企業診断士)が対談を振り返り、明日の経営に活かせるポイントを整理します。

このインタビューから持ち帰る3つの学び

  • 住む場所と資産を置く場所は、切り離して設計する
  • 分散は金額の大小ではなく、置き場所を分けること自体に意味がある
  • 預け先は、何にお金を入れているのかを客観的に確認できるかで選ぶ

海外移住というと、多くの方は「どの国に住むか」から考え始めます。私自身、銀行口座はその国に住んでいなければ開けないものだと思い込んでいました。今回お話を伺って気づかされたのは、住む場所と資産を置く場所は別々に設計できるし、分けて考えたほうがよいという点です。移住先が変わっても、資産の置き場所は変わらない。この発想があるだけで、移住の準備で考えるべきことの順番が変わります。

印象に残ったのは、松島さんの「分散すること自体に意味がある」という言葉です。投資の世界には「卵は一つのカゴに盛るな」という格言がありますが、私たちはどの商品に分けるかは考えても、どの国に置くかまではなかなか考えません。海外に置く金額がそれほど大きくならなくても、置き場所を分けておくことがリスク管理になる。海外口座は一部の超富裕層だけのものだという受け止め方は、見直してよいのだと感じました。

一方で、「海外」「ファンド」と聞くだけで不安を覚える方が多いのも事実です。だからこそ、何にお金を入れているのか、誰が運用し誰が管理しているのかを、客観的に確認できることが欠かせません。お金の置き場所を決めることは、自分がどのリスクを引き受けるのかを決めることでもあります。住む国を選ぶのと同じだけの時間を、資産の置き場所にもかけてよいのではないでしょうか。

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