3名で年8,000万円の事業をMBOで買い取る——年上の部下が動かなかった元課長が、人事評価コンサルで起業するまで
この記事でわかること
- 年上の部下ばかりのチームで、マネジメントが機能しなかった原因と立て直し方
- 会社の看板が外れた営業で、受注が取れるようになった転換点
- 3名で年間約8,000万円まで伸ばした新規事業を、MBOで買い取るまでの流れ
- 日本政策金融公庫と保証協会の融資でMBO資金を調達した中身
- 2030年に売上20億〜30億円を掲げる人事コンサル会社の、評価制度の考え方
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大企業の新規事業で売上拡大に携わり、組織コンサルティング会社を経て、ベンチャー企業の役員として立ち上げた事業をMBOで買い取る。OGSコンサルティング代表の深石社長は、そうした道筋で起業しました。ただ、その途中には、年上の部下がまったく動かない、会社の看板が外れた途端に受注が取れない、起業1年目に資金繰りで苦しむといった壁がいくつもありました。M&Aスタジオ代表の野﨑が、それぞれの壁をどう越えてきたのか、そして戦略連動型の人事評価制度で何を解決しようとしているのかを伺いました。
プレイヤーとして成果を出した人が、マネジメントでつまずくのはなぜか?
深石社長は理系の大学院でDNAやタンパク質を扱う研究に取り組み、修士課程を修了しています。就職活動では学んだことを生かせる企業を探していましたが、パナソニックグループのパナソニック エイジフリーを受けた際、面接で出会った当時の役員の器の大きさや誠実さに惹かれ、「この方の元で働きたい」と入社を決めました。同社の介護事業は社長プロジェクトとして始まった新規事業で、大企業のなかのベンチャー組織として裁量を持って働けることも決め手になったといいます。
介護保険制度の開始を追い風に事業は伸びていましたが、新規事業ゆえに営業の標準モデルや追いかけるべきKPIが整っていませんでした。深石社長は現場に張り付いてハイパフォーマーの行動を分析し、成果につながる指標を見つけて基準をつくり、仕組み化を進めます。営業企画、マーケティング、人材育成、経営企画とキャリアを重ねるなかで、事業の売上は120億円から170億円へ拡大し、入社時に150〜200人ほどだった組織は約800人になりました。深石社長自身は「1人の力で伸ばしたわけではない」と前置きしています。
壁にぶつかったのは、プレイヤーとしての成果を評価されて早くに課長へ登用されたときです。担当したチームは年上で経験豊富なメンバーが多く、「なぜあなたに指示されなければいけないのか」という空気のなかで、チームのルールや目標設定、役割分担もうまく整えられず、成果が上がりませんでした。
転機になったのは、30歳を過ぎてキャリアを考えていた時期に読んだ株式会社識学の書籍です。ルールを明確にする、コミュニケーションより仕組みで動かす、ゴールを明確にする、モチベーションでマネジメントしない、プロセスにあまり関与しない。こうした考え方を自分のチームに一つずつ取り入れたところ、動かなかったチームが機能し始めました。深石社長は「マネジメントは正解がある」「抑えるべきポイントはしっかりある」と実感し、この試行錯誤の経験が、いまのコンサルティングの土台になっていると語ります。
会社の看板が外れたとき、受注を取れるようになった転換点は何だったのか?
自分と同じように悩むマネージャーの力になりたいと考えた深石社長は、35歳で識学に転職します。配属は大阪拠点の立ち上げメンバーで、営業兼コンサルタントとして新規営業に走り回る毎日でした。知名度もないなかでアポイントを取り、訪問を重ねても、最初はまったく成果が出ません。パナソニックで出していた成果は会社の看板があってこそで、自分の力ではなかったと痛感したといいます。
状況が変わったのは、営業のスタンスを切り替えてからです。問い合わせてくる企業は課題を抱えています。営業と顧客が向き合う「VS構造」で臨むのではなく、同じ当事者として、どのゴールに向かえば課題が解決するのかを一緒に考える。そこに気づいてからはトークも変わり、姿勢や表情といった言葉以外の部分も変わっていったと深石社長は振り返ります。
識学に在籍した2年間で関わった企業は、セミナーや1日研修なども含めて40〜50社ほど。そのうちの一つである物流会社は、コミュニケーションや飲み会を重視し、社長とメンバーの距離が近い一方で、ルールがほとんどない組織でした。距離が近すぎるとメリハリが効かず、成果につながりません。何をすれば評価され、何をしてはいけないのかという線引きを明確にし、距離を適度に保つようにしたことで指示が通るようになり、収益面でも成長したといいます。
会社の看板の信用は、やはり大きいものです。M&Aも同じで、まず求められるのは自分で受注を取ってくることです。コンサルタントは本来、相手から「お願いします」と頼まれて仕事をする専門家なので、自ら売り込んでいくのは苦労が多かったと思います。
お客様は、いらないものはいらない。人は自分の信念に従うものです。相手が行きたいと考えている場所に対して、ソリューションを提供できると伝えられれば、利用していただけるのだと思います。
社内で立ち上げた事業を、なぜMBOで自分の会社にしたのか?
識学で支援していたデジタルマーケティング会社・Xラボの社長から、コンサルタントとしてではなく役員として一緒に事業を伸ばさないかと声がかかり、深石社長は移籍を決めます。執行役員として入社し、3か月後に取締役に就任。人事のトップとして組織づくりを担いながら、ほぼ同時並行で新規事業の統括も務めました。
新規事業は当初、マーケティングとマネジメントのノウハウを掛け合わせたパッケージとして、中小・ベンチャー企業の経営者に展開しました。しかし焦点がぶれてしまい、最初の1年は試行錯誤が続いて収益がほとんど立ちません。経営者が求めているのは目の前の具体的な課題の解決だと考え、サービスを絞り込んだことで需要と供給が噛み合い、事業は伸び始めます。立ち上げから半年ほどは社長がプロジェクトマネージャーを務め、その後は深石社長が事業責任者としてプロダクト開発も担いました。コンサルティング部門は、3名で年間約8,000万円の規模になったといいます。
自分で戦略を考え、PDCAを回し、失敗しながら事業が育っていくと、所有感が生まれます。深石社長は「100%責任を負って、リスクも負って勝負したい」という思いを強くしていきました。役員ミーティングで、ある会社の役員がMBOで1部門を切り出したという話を聞いていたことから、そうした選択肢があることも知っていました。
事業の売却を一切考えていなかったXラボの社長は驚いたといいます。それでも、これから大変なことも多いが覚悟次第だと問われ、2回ほど思いを伝えるなかで了承を得ました。スキームは、新たに設立したOGSコンサルティングがXラボから事業を譲り受ける事業譲渡です。MBOの意向を伝えたあとにデューデリジェンスが入り、評価額の提示を受けて進めました。
MBOの資金はどう調達し、起業1年目に何が起きたのか?
買収資金は借入れで調達しました。深石社長自身は融資に詳しくなかったものの、思いに共感して支えてくれる人に助けられながら、学び、交渉し、事業計画を伝えていきました。その結果、日本政策金融公庫で、頻繁には使われていないという該当商品が見つかり、融資を受けることができました。もう一つは保証協会の融資です。交渉は2024年末から始まり、融資が実行されたのは2025年5月でした。
本人にとっても大きな借入れで、それが覚悟でもあったと深石社長は語ります。そして起業後の1年を振り返り、「一言で言うなら苦しかった」と率直に答えました。痛感したのは、黒字であることとは別に、手元のキャッシュがいかに大切かということです。
コンサルティングは固定費の大半が人件費と賃料で、赤字にならなければ資金繰りは苦しくなりにくい事業です。それでも苦しくなったのは、成長に向けた先行投資のタイミングが重なったためでした。広告費を積極的に投じ、組織の拡大を見据えて事務所を広げ、業務の生産性を上げるためのシステムにも投資しました。借入れをしてでも投資しなければ成長は難しいと考えて選んだ道でしたが、売上が伸びていても、実際の資金繰りには苦しんだといいます。現在の社員は7名で、1年で学んだことを踏まえて手入れを進めており、基盤は固まってきていると話します。
オーナーにとっても、適正な価格で買い取ってもらえるのであれば経済的な合理性があります。MBOで一番のネックになるのは、買い手の資金調達です。
コンサルティング事業は過去の実績からキャッシュフローが見えるため、事業計画は比較的つくりやすく、事業の知見が経営者本人についていることも強みになります。まさに日本政策金融公庫や保証協会の出番だと感じました。ただし、借入れの返済は税引後の利益から行わなければなりません。その重みは、実際に経営者になってみて初めて実感するものだと思います。
人事評価制度が機能する会社と、機能しない会社は何が違うのか?
OGSコンサルティングは、戦略と連動させた人事評価制度の構築と運用を支援しています。一つ目の特徴は、経営方針や経営戦略と、評価をはじめとする現場の仕組みを接続することです。同社の調査では、成長している企業は戦略と現場の仕組みがきちんとつながっている一方、成長が鈍化したり前年割れしたりしている企業では、2割ほどしか接続できていないという結果が出たといいます。経営の思いが現場に伝わらず、仕組みにもなっていない状態です。
二つ目は、評価制度への抵抗に向き合うことです。人は基本的に評価されたくない生き物で、損失回避の心理から「制度が入ったら自分の評価が下がるのでは」と考えがちです。そのため評価制度の導入には、反発やネガティブな動きがつきものです。同社では、評価という仕組みがなかったらどんな世界になるかを考えてもらったり、人類の進化の過程でも評価が重要な役割を果たしてきたことを伝えたりしながら、評価を成長のエンジンとして捉え直してもらう支援をしています。
三つ目は、仕組みと「温度」をセットで扱うことです。深石社長は「仕組み自体には温度がない」と話します。体温が下がると免疫力が落ちるように、組織にも一定の温度が必要で、その温度を左右する血流にあたるのがコミュニケーションや関係の質です。そこが伴わないまま仕組みだけを入れてもうまくいかないため、両輪で支援しているといいます。
同社は5年後の2030年に、売上20億〜30億円、組織規模70〜80名を目標に掲げています。人は未来のゴールにワクワクし、動機づけられる。だからこそ、非現実的な大風呂敷ではなく、手触り感のあるワクワクするゴールを経営者が示せるかどうかが大きいと深石社長は考えています。
こうした組織の問題は、基本的に経営側にあると私は考えています。従業員に何を求めるのかを発信していなければ、従業員は何を求められているのか分かりません。会社にとってプラスになることをすれば褒め、マイナスになることをすれば叱る。これをシンプルに仕組み化していくことが大事なのだと思います。
戦略があり、同じ方向を向いた人事制度があり、評価のポイントがある。このベクトルを合わせることがとても大事なのに、案外できていない会社も、気づいていない経営者も多い。理念は語るけれども、それを実行するための戦略や制度がない会社は少なくありません。
インタビューまとめ 対談を経営の視点から振り返ります。
今回のインタビュー動画はいかがでしたか。ここからは、M&Aスタジオ代表・野﨑繁裕(中小企業診断士)が対談を振り返り、明日の経営に活かせるポイントを整理します。
このインタビューから持ち帰る3つの学び
- マネジメントは才能ではなく、押さえるべきポイントを押さえれば成果が出る
- 売り込む側に立たず、顧客と同じ当事者として課題を見る
- 仕組みだけでは組織は動かない。温度とセットで設計する
進行中のM&Aの条件や、
事業の進め方について
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【売ってから気づいても手遅れ】M&Aで後悔しやすい社長の特徴...あなたは大丈夫?【教えて野﨑さん/第35回】



