営業ゼロで起業2年半、従業員11名に——仲介とFAの両方を知る元地銀マンが語る「売り手が後悔しないアドバイザー」の見極め方

  • 公開日2026年10月29日

この記事でわかること

  • 仲介とFAで、売り手への助言の立ち位置がどう変わるのか
  • 既存のFA・仲介から切り替えた2社が満足した理由
  • 「要望を言ってください」では引き出せない本音を掘り下げるヒアリングの中身
  • 従業員11名・FA3名の体制で、担当者による品質のぶれを防ぐ仕組み
  • 上場会社案件が7〜8割というDDの経験が、売り手の事前準備に生きる理由

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会社を売ろうと決めても、どのアドバイザーに任せればいいのかは簡単には決められません。FAと仲介の違いは調べればわかっても、「何が高品質なのか」は、M&Aを経験したことのない売り手には見えにくいものです。池田泉州銀行のM&Aチームで仲介業務を、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリーでFA業務を経験したのち、株式会社Closerを設立した中谷社長は、起業から2年半余り(2026年3月の撮影時点)、営業活動を一切せずに紹介とリピートで仕事を広げてきました。アドバイザー選定支援でCloserを紹介してきたM&Aスタジオ代表の野﨑が、その品質の中身を聞きました。

仲介とFAは、売り手にとって何が違うのか?

仲介は売り手と買い手の双方について案件をまとめていく形、FAは売り手なら売り手の側にだけついて助言する形です。野﨑は「仲介を否定するわけではない」としたうえで、お客様によっては仲介が適する場合もあると話します。中谷さんは、銀行で仲介を、デロイトでFAを担ってきた、両方の立場を最前線で知るアドバイザーです。

形式の違いが売り手の実感にどう表れるのか。野﨑の紹介で成約に至った案件のうち、比較しやすいものとして中谷さんが挙げたのが、既存のアドバイザーからCloserに切り替えた2社です。1社はすでに別のFA会社と契約していましたが、自分の意見をあまり理解してもらえないと感じていました。もう1社は大手の仲介会社と進めていて、相手側の意見を押し通されることに悩んでいました。

切り替え後、両社が共通して口にしたのは「100%自分の立場に立って助言をしてくれた」という感謝だったといいます。野﨑がLINEで様子を尋ねたときも、返ってきたのは「120%満足でした」という言葉でした。中谷さんは、売り手の立場に立つこと自体は普通の話だとしつつ、そこが根本にあることが業務の品質にもつながっていると語ります。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

仲介とFAのどちらが良いかという議論はずっとありますが、仲介かFAかというのは、売り手にとって比較的わかりやすい違いです。わかりにくいのは、何が高品質なのかという部分です。M&Aは人が提供するものですから、誰に依頼するかがすごく大切になります。おそらく脳外科手術でどの先生が執刀するかが大切なのと同じことだと思います。

「品質の高いアドバイザー」は、どこで見分ければいいのか?

切り替えた2社が満足した理由を、野﨑は3つに分けて見ています。1つ目は対応の丁寧さです。銀行出身のアドバイザーは、お客様に丁寧な組織文化の中で育っており、特に中小企業のオーナーとのコミュニケーションが丁寧だといいます。2つ目は、売り手側にしかつかないFAという立ち位置。そして3つ目が、お客様が本当に何を求めているのかを理解することから始めるスキルです。

野﨑は、売り手の立場なら自分の要望をできる限り聞いてほしいと思うはずだとしたうえで、「要望を言ってください」と言うだけでは、売り手は要望を100%言葉にできないと指摘します。必要なのは、適切な問いを立てる力です。中谷さんによれば、売主の要望はたいてい複数あります。経済条件が一番なのか、それとも別のところにあるのか。理由や背景まで含めて徹底的にヒアリングし、「この売主さんはこれが一番大事なんだ」という軸をチーム内で理解したうえで案件を始めます。

案件は半年、あるいはそれ以上かかることもあり、その間に売主の気持ちは揺れ、「あれもこれも」と要望が増えることもあります。そのたびに「当初の軸はこれでしたよね」と立ち返り、「これは二の次にしたほうがいいのでは」と話ができる。こうした助言を支えているのが、社内にノルマや予算を設けていないことだと中谷さんは話します。お客様にとって一番良いアドバイスをするという方針を全員が持っているため、選択肢をフラットに示せるのです。野﨑によれば、FAを選ばなかったお客様との面談でも、「売らなくてもいいのでは」といった意見まで率直に伝えているといいます。

担当者によって品質がぶれないかは、どう確かめればいいのか?

Closerでは、一般的な採用活動をまったく行っていません。面接だけでは、その人が本当はどんな想いで働いているのかまではわからない。銀行時代にもデロイト時代にも採用担当を務めた中谷さんが行き着いたのは、実際に一緒に働いたことがあり、能力的にも人間性の面でも信頼し合える人だけで組織をつくる、という結論でした。専門性や知識、ノウハウは当たり前に必要で、それ以上に重要なのが、お客様への誠実さやコミットメントの意識だといいます。

撮影時点の従業員数は、パート2名を含めて11名。FA、会計・財務、税務の各ラインにそれぞれ3名ほどが所属し、FAを担うアドバイザーは3名です。誰か1人に任せきりにする形はとらず、全案件に中谷さん自身が関与することで、いわゆる「担当者ガチャ」が起きないようにしています。少人数でも属人的にならず、誰かが抜けてもバックアップがきくよう組織的に動けることも意識しているといいます。

この体制は、中谷さんが独立した理由とも重なります。大きな会社には自由度や良いリソースがある一方で、こういうチームでやりたいと思っても、昇格や異動でチームが一時的なものになってしまう。その悶々とした部分を、自分でやることですべて叶えられると考えたのが独立のきっかけでした。人を増やすこと自体を目的にする考えは起業当初からなく、仕事があり、良い人がいて初めて人を迎えるという考え方です。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

規模が大きくなると、ヒアリングのノウハウなどをパッケージ化して標準化しないと経営ができません。それをできる限り進めているのが大手の専門会社だと思います。ただ標準化すると柔軟性がなくなり、決められた枠の中でしか業務ができなくなる。Closerさんは自分と同じくらいのレベルで働ける人しか採らないので、わざわざマニュアル化する必要がない。それが人の品質が高いということだと思います。

オーダースーツにたとえるなら、既製品、イージーオーダー、フルオーダーがあって、Closerさんはフルオーダーです。お客様によってどれが合うかは分かれますが、フルオーダーを求めるお客様も世の中にはいらっしゃいます。紹介する立場としても、どのアドバイザーが仕事をするのかが見えていることは安心材料です。

財務・税務まで社内で見通せる体制は、売却にどう効くのか?

起業当初、中谷さんは上場会社の案件で声がかかることはないだろうと考えていました。ところが実際には、上場会社の案件が7〜8割を占めるようになったといいます。買い手側として行うDD(デューデリジェンス:投資先の価値やリスクなどを調べる調査)の相手は、PEファンドや上場会社、中堅規模の未上場企業などさまざまです。

FAの案件でも、財務・税務の論点は必ず出てきます。Closerでは、ハイレベルなDDを日常的に手がけるメンバーの目を事前に通し、「DDが入ったらこの点はどう見られるか」を社内で壁打ちできます。たとえば売主の顧問会計士・税理士による仕訳が不十分で、会社の特徴を示すための分析資料が足りないケースでも、グループの税理士法人で事前に整理できる。会社分割などのスキームの検討を税理士法人で担ってほしいという声に応えられるのも、FAにとって安心な体制だと中谷さんは話します。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

上場会社のDDが案件の多くを占めているということは、売り手からすると、それくらい厳しい目線と精度で自社を精査したうえで案件を進められるということです。これは品質を裏付ける1つのエピソードだと思いました。フルオーダーで良いものを提供するには専門家のチームワークが大事ですが、専門家一人ひとりのスペシャリティが高く、チームの連携も非常に良い。だから良いものが提供できるのだと思います。

営業をしないアドバイザーは、なぜ選ばれ続けるのか?

Closerは起業してから営業活動をまったくしていません。中谷さんは結果論かもしれないとしつつ、1件1件の業務を徹底してやり切れば、お客様が自然とリピートし、紹介してくれた方がまた別の方を紹介してくれると話します。仕事が増え、人も増えてきた今の状態を「今のところは好循環」と表現しました。

一方で、中谷さんはその裏にある怖さも隠しません。デロイトにいた頃よりも神経質になり、質を保つことを疎かにした瞬間に一瞬で仕事が来なくなるというプレッシャーがある。品質に最も重きを置く以上、規模を大きくしすぎれば緩みが出やすく、大きくスケールするのは難しいという野﨑の指摘にも、スケールを求めているわけではないと同意しました。100人規模になるイメージはまったくなく、Closerのバリューである「最高品質のアドバイザリーサービス提供」と、社内のチームワークは絶対に維持したいといいます。

とはいえ、変わらないことを良しとしているわけではありません。時代の流れに応じて柔軟に変化し、AIの活用なども含めて研鑽を続けなければ、価値提供を高め続けることはできない。対談の終盤ではそうした話も交わされました。独立前に思い描いていたことはかなり達成できており、達成すると次が見えて可能性が広がっていく。中谷さんは、自然体のままどこまで拡大していくかを見据えています。

インタビューを振り返る野﨑繁裕 インタビュー
まとめ
対談を経営の視点から振り返ります。

今回のインタビュー動画はいかがでしたか。ここからは、M&Aスタジオ代表・野﨑繁裕(中小企業診断士)が対談を振り返り、明日の経営に活かせるポイントを整理します。

このインタビューから持ち帰る3つの学び

  • アドバイザーは会社の看板ではなく「誰が担当するか」で選ぶ
  • 本当の要望は聞かれて出てくるものではなく、問いを立てて掘り起こすもの
  • 交渉の途中で迷ったら、最初に決めた「軸」へ立ち返る

M&Aは、どこまでいっても人が提供するサービスです。同じ「FA」「仲介」という看板を掲げていても、担当者が売り手の話をどこまで深く聞き、何を軸に助言するかによって、結果も満足度も大きく変わります。今回中谷さんとお話しして改めて感じたのは、品質とは特別なテクニックではなく、当たり前のことを1件1件徹底できるかどうかだ、ということでした。

中谷さんは、独立してからのほうがデロイト時代よりも神経質になったと話していました。営業をせず、紹介とリピートで仕事が広がっているからこそ「1件1件の質を下げられない」。この緊張感が、一緒に働いたことのある人だけを迎え入れる採用や、全案件に代表自らが関与する体制につながっているのだと思います。規模を追わないという判断は、品質を守るための合理的な選択でもあります。

会社を譲渡するという意思決定は、社長の人生を大きく変えます。だからこそアドバイザーは比べたうえで、自分の要望を本当に理解してくれる相手かどうかを見極めてほしい。仲介かFAかという形式の違い以上に、「誰に依頼するか」がM&Aの満足度を左右する。今回のインタビューは、そのことを具体的な話で示してくれたと感じています。

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【売ってから気づいても手遅れ】M&Aで後悔しやすい社長の特徴...あなたは大丈夫?【教えて野﨑さん/第35回】

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