IT費用は売上の1〜2%が目安、でもそれだけでは測れない——中小企業経営者がM&A前に見るべき「表面・運用・本質」
この記事でわかること
- 税務・財務DDでは見えない、買収後に「システムが動かせない」事態が起きる理由
- システムDDで確認する「表面・運用・本質」3層のチェックの中身
- 基幹システムの入れ替えに2年かかる前提で、買収前に費用を見積もる考え方
- 「IT費用は売上の1〜2%」という目安の使い方と限界
- Excelの整備だけで赤字製品の可視化から利益改善につなげた実例
- 売り手企業が売却前に着手すべきIT・アカウント管理の整備ポイント
インタビュー動画
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会社を買収した後、蓋を開けてみたらシステムが誰の管理かわからない、担当者しか触れない、ベンダーから剥がせない——。税務や財務の監査は当たり前に行われる一方で、IT・システム面の確認は後回しになりがちです。今回は、M&Aにおける「システムDD(デューデリジェンス)」の専門家であり、ITのプロフェッショナルでもある浅田さんへのインタビューから、買収前にシステムを見ておくことの意味と、中小企業のIT投資の考え方を掘り下げます。
なぜ買収後に「システムが動かせない」事態が起きるのか?
浅田さんは元々、中部電力で約10年にわたり電力系統を監視するシステムの保守に携わり、現場の運転員と対話しながら「使いやすい仕組み」を設計してきた経歴の持ち主です。独立後は水産業や物流、病院といった現場産業のIT支援を手がけ、その延長線上でM&AのシステムDDにも取り組んでいます。
M&Aの買収監査では税務DD・法務DD・財務DDが一般的ですが、システム面は「後で何とかなる」と考えられがちだと浅田さんは指摘します。ところが買った後に蓋を開けてみると、誰が管理しているのかわからない、特定の人にしか触れない属人性の塊、中身が見えないブラックボックス——そんなケースが少なくありません。システムはその会社の文化やオペレーションそのものであり、「何十年もやってきたやり方だから」と社員に染み付いているため、買収後に強制的に変えるのが難しいのです。基幹システムが世に出始めてから20〜30年が経ち、多くの会社が更新時期を迎えている今、この問題は放置できない段階に来ています。
会社は昔から「ヒト・モノ・カネ」と言われますが、今の時代はデータも資産としてすごく大事になっています。ベンダーにロックされて剥がせない、属人依存でブラックボックスになっている——これは買収後の統合において結構なリスクです。ITのコストを見る買い手は多くても、どう使われているかまで突っ込む方は少ない。そこまで見ておくことが、その後のリスク回避になります。
システムDDでは、コスト以外に何を確認するのか?
では、システムDDでは具体的に何を見るのでしょうか。浅田さんのアプローチは3つの層に整理できます。まず表面として、何のシステムを使い、どんな費用がかかっているか。次に運用として、誰が管理し、どんな整備をしていて、更新頻度や次の更新時期はいつか。ベンダー任せで人が動いているだけなのか、社内で管理できているのか、運用の蓋を開けて確認します。
そして最後が本質です。「このシステムで何を実現しているのか」まで踏み込むこと。浅田さんは「日本人は仕組みを増やすことは得意だが、辞めることが苦手」と言います。過去の遺産で入れたものの今は使っていないシステム、導入しただけでデータの使い道が不明なSaaS——そうした実態まで拾えれば、「ここは後で外せばいい」「ここは重要だから更新しないとリスクだ」という判断ができ、買収後にかかる費用の想定精度が大きく変わります。実際、基幹部分を丸ごと入れ替えるとなれば2年がかりの作業になってしまうため、事前にリスクとして表に出ているだけでも買収後のスピード感は全く違うといいます。
買収監査の段階でシステム的な問題点を整理しておき、「ここは問題があるから追加費用をかけて合理化したほうがいい」とわかっているのといないのとでは、PMI(M&A後の統合作業)のスムーズさ・スピード感が変わります。頭にあるだけで、かけないといけないコストの見え方は全然変わってくるんです。
「IT費用は売上の1〜2%」という目安だけで判断していいのか?
システム投資の悩ましさは、売上や利益への貢献を直接説明しにくい点にあります。世の中のデータではIT費用の目安として売上の1〜2%という数字が挙げられますが、浅田さんも野﨑も、これはあくまで1つの物差しに過ぎないと口を揃えます。お金をかければできることは多くても、それが全部利益につながっているかは別の話。むしろ大事なのは、このシステム費用が売上・利益にどれだけインパクトがあるのかを、経営者が自分なりに把握することです。
浅田さんが紹介した実例が象徴的です。何も整備されていなかった顧客企業で、高価なツールを入れるのではなく、まずExcelで利益管理を始めました。担当者と一緒にデータを打ち込み、関数で製品ごとの利益率を計算する。最初は「数字が違う」と反発もありましたが、可視化してみると、経営者が「売れている」と言っていた製品はほとんど利益が出ていなかった。真っ赤だったシートが改善を重ねて黒字に変わり、売上と財務が伸びていったといいます。Excelベースの整備だけでも、経営の判断材料としては十分に機能する——AIだDXだと言う前に、まず数字を見える化することの威力を示す話です。
私も中小企業経営に関わっているのでよくわかりますが、システム費用は売上・利益にどれだけ関連するか説明しにくいものです。だからこそ、投資する側の経営者が自分なりにインパクトを把握することが大事です。中小企業のM&Aのお手伝いをしていると、Excelどころか手書きで売上を管理している会社もいくつも見てきました。関数で整理するだけでも全然変わってくるはずです。
会社を売る側は、何から整備を始めればいいのか?
売り手企業がまず取り組むべきは、現状の整備だと浅田さんは言います。今どんなシステムを使い、どういう状態なのか。アカウントが何個あり、誰がどう管理しているのか。パスワードが付箋で貼られていれば、1個盗まれるだけで全部に侵入されるリスクがありますし、個人情報を含む大事なデータを個人のUSBで持ち帰る運用が残っている会社もあります。データがどう保管され、どういう経緯でこの仕組みができたのかという属人性の部分——そこを可視化して説明できるだけでも、スタートラインとして十分だといいます。
仕組みを変えられるかどうかの判断は、その先の話。まずは買い手が判断できる材料を表に挙げておくこと自体が、売り手にとっての価値になります。中小企業にはIT領域の専門性を持った社員が少なく、いても1人で現状維持に手一杯というケースが多いのが実情です。だからこそ、外部の力も借りながら「説明できる状態」をつくることが、売却の土台になります。
AI時代のM&Aで、システムDDの位置づけはどう変わるのか?
今後についても浅田さんの見立ては明快です。人口が増えない中で、AIをどう活用し、どう仕組み化するかが問われるケースは確実に増えていく。ITやDXを前提とした経営は、もう外すことができません。ただし、全部をシステム化することが正解だとは考えていないとも言います。人間の良さは残る。だからこそ、その仕組みを人間がどう上手く使えるのかという観点が大事であり、それを伸ばせる余地があるかどうかが、会社の価値に直結していく——。表面の数字だけでなく、運用と本質まで開けて見る。システムDDの考え方は、M&Aの場面に限らず、自社の経営を見つめ直す視点としてもそのまま使えるはずです。
インタビューまとめ 対談を経営の視点から振り返ります。
今回のインタビュー動画はいかがでしたか。ここからは、M&Aスタジオ代表・野﨑繁裕(中小企業診断士)が対談を振り返り、明日の経営に活かせるポイントを整理します。
このインタビューから持ち帰る3つの学び
- 表面の数字だけでなく「誰が・何のために・どう運用しているか」まで開けて見ることが、買収後のリスク回避になる
- 高価なツール導入より先に、手元のデータを可視化して経営の判断材料にすることが利益改善の起点になる
- 仕組みは増やすより辞める判断が難しい。導入目的まで遡って問うことが、コストだけが残る事態を防ぐ
進行中のM&Aの条件や、
事業の進め方について
心配ごとはありませんか?
売る・売らないのどちらを選んでも、Mスタにできることがあります。仲介はせず、成功報酬も受け取りません。だから「売らない」という結論も含めて、忖度なくお答えできます。
【売ってから気づいても手遅れ】M&Aで後悔しやすい社長の特徴...あなたは大丈夫?【教えて野﨑さん/第35回】
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