マッチング網は「倍」に——元地銀マン2人が読み解く池田泉州・滋賀の提携と、M&Aの相談先を1社に絞らない理由

  • 公開日2026年10月20日

この記事でわかること

  • 合併・経営統合・資本業務提携・業務提携、4つの結びつきの強さの違い
  • 店舗の重なりが少ない2行の提携で、売却先のマッチング網が「倍」になる理由
  • 買い手候補のロングリストを作っても「ほとんど当たれない」ことが起きる理由
  • 地銀のM&A担当者が、決裁権を持つ社長に直接アプローチできる理由
  • 地銀・FA・M&Aスタジオの3者を前に、相談先を1社に絞らないほうがよい理由

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滋賀銀行と池田泉州銀行が資本業務提携を結びました。株式の持ち合いとしては小さな動きに見えても、関西で会社の売却や事業承継を考える経営者にとっては、相談先の選び方にも関わる変化です。池田泉州銀行に約12年、デロイトに5年半在籍し、現在はFA業務に特化するCloserの中谷氏に、滋賀銀行に19年在籍したM&Aスタジオ代表の野﨑が話を聞きました。提携の形態の違いから、地銀のM&Aが買い手探しに強い理由、相談先の選び方までを整理します。

資本業務提携・経営統合・合併は、何が違うのか?

M&Aの報道には「資本業務提携」「経営統合」「合併」といった言葉が並びますが、その違いは分かりにくいものです。デロイト時代に企業再編の案件を数多く手がけてきた中谷氏は、結びつきの強さで4つに整理します。

最も強いのは合併で、2社が完全に1つの会社になります。中谷氏によれば、合併では雇用契約を含む契約関係がそのまま引き継がれ、いったん解雇されてから契約し直すといった形にはなりません。次に強いのが経営統合です。ホールディングスの下に2社が兄弟会社のように並び、会社としては別々に残るものの、実質的には一体のグループになります。

資本業務提携の強さは出資比率によりますが、単なる約束ではなく株式を持ち合う提携であり、中谷氏は「血縁関係になったイメージ」と表現します。その外側にあるのが一般的な業務提携です。なお合併は時間がかかるため、経営統合を経てから合併に進むケースが多いといいます。

今回の池田泉州銀行と滋賀銀行の提携は、この中の資本業務提携にあたります。野﨑は、株式の取得割合が0.数%程度で世間的なインパクトは大きくないかもしれないとしつつ、滋賀銀行の出身者として率直に衝撃を受けたと振り返っています。

池田泉州銀行と滋賀銀行が組むと、M&Aの何が変わるのか?

中谷氏は、提携のニュースを「すごく良い」と受け止めました。理由は、エリアと顧客の両面で2行が補完関係にあることです。中谷氏は池田泉州銀行の在籍時に泉州銀行と池田銀行の合併を経験しており、支店の重なりが少なく距離も近い銀行どうしが組んだことで、より大きな銀行として見られるようになり、明らかに強くなったといいます。今回の提携はその大型版、というのが中谷氏の見立てです。

滋賀銀行は滋賀から京都にかけて、池田泉州銀行は大阪と京都、神戸の一部に拠点を持ちます。M&Aの部署で見れば、会社を売りたいお客さんに対してマッチングできるネットワークが倍になる、と中谷氏は話します。

野﨑の見方では、滋賀銀行は大阪で店舗を縮小してきた経緯があり、池田泉州銀行と組むことで新たに店舗を出さずに大阪エリアを拡充でき、兵庫も補えます。反対に池田泉州銀行から見れば、京都に古くから支店を持つ滋賀銀行の京都でのネットワークと、安定した預金基盤が加わります。中谷氏も、池田泉州銀行の目線から見ても相乗効果は大きいと同意しています。

M&A部門どうしの組み合わせも見どころです。中谷氏によれば、池田泉州銀行は関西の地銀の中でも先駆けてM&Aの業務を提供してきた歴史と実績があり、滋賀銀行のM&A部門も立ち上げから10年以上が経っています。それぞれのアドバイザーが培った能力と、顧客に限らない幅広いネットワークを持ち寄り、総合的に協力し合えば非常に強い体制になる、というのが中谷氏の見方です。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

滋賀銀行時代、私は仲介を中心にM&Aを手がけていました。専門会社と組んで案件を受けても、銀行としては買い手を自分の銀行のネットワークで探したい。そのほうが手数料も多く入るからです。ただ、滋賀銀行のネットワークは大阪ではどうしても弱かった。

池田泉州銀行のネットワークが使えるなら、相手はより見つけやすくなりますし、お客さんへの説明もしやすくなります。滋賀銀行出身の私と池田泉州銀行出身の中谷さんだからこその、かなりリアルな実感です。

地銀のM&Aアドバイザーは、買い手探しで何が強いのか?

中谷氏が率いるCloserは、池田泉州銀行を含む地方銀行とM&Aの業務で連携しています。Closerが売り手側のFAを務める案件で地銀に買い手側として協力してもらうなど、日常的に地銀のM&A担当者と組んで仕事をしている立場です。

その中谷氏から見た地銀のM&A担当者の特徴は、まず丁寧であること。そして何より強いのは、地銀が「この企業に当たりたい」と挙げる買い手候補に、実際にきちんとアプローチできる関係性を持っている点だといいます。当たり前に聞こえますが、候補先のロングリストに多くの企業名を挙げながら、実際には「ほとんど当たれなかった」「リーチがなかった」という状態は、仲介会社でもFA会社でもよくある実態だと中谷氏は指摘します。地銀の担当者は、接点のない企業をむやみに並べるのではなく、自分たちが選んだ企業に責任感を持って当たる人が多いといいます。

差が出るのは、日頃の関係がない企業への接触です。多くのアドバイザーは飛び込みのテレアポで窓口からの突破を図りますが、窓口でシャットアウトされたり、しかるべき権限を持たない人に断られたりするリスクがあります。地銀は社長を含めて長年のリレーションを築いているため、M&Aを検討できる権限者に直接アプローチできる。買い手企業の多くが地銀の融資先であることも、その背景にあります。

野﨑によれば、Closerのようなフリーのファイナンシャル・アドバイザーは全国の地方銀行や会計事務所とつながっており、売り手側のFAを務める案件では、各地の地銀が買い手側として取引先に当たってくれます。逆に地銀が仲介で売り手と買い手の双方を担う案件では、買い手に必要な買収監査(DD)や税務上の論点について、DDの専門家や税理士を抱えるCloserが支える。中谷氏は、日々連携する銀行が強くなれば自社も強くなるこの関係を「すごく美しい構造」と表現しています。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

私は地方銀行に19年勤めていたので分かりますが、地銀の取引先をつかむ力はかなりのものです。私は別に中小企業の経営もしていますが、支店長が転勤になると必ず挨拶に来られます。来てもらわなくても構わないのですが、本当に丁寧なんですね。

そうした積み重ねで築かれた信頼があるので、経営者が銀行と聞いて不信感を持つことはまずありません。その銀行が「ぜひご提案したいお話が」と社長に電話を入れれば、だいたいアポイントが取れる。この提案力が地銀の強さです。

M&Aの相談先は、地銀とFAのどちらを選べばよいのか?

M&Aには、買い手と売り手の両方について案件をまとめる「仲介」と、買い手側か売り手側のどちらか一方について助言する「FA」という進め方があります。地方銀行、FAのCloser、そしてM&Aスタジオ。立場の異なる相談先を前に、経営者は誰に相談すればよいのでしょうか。

中谷氏の答えは「全員に相談したら良い」です。Closerは3期目の会社で、知らない人からすれば「誰?」という存在かもしれない。地元の地銀など日頃から付き合いがあり信頼関係のある人に相談するのもよし、野﨑や中谷氏に問い合わせるのもよし。全員の話を聞いたうえで、最後は社長が決めればよいといいます。

ただし、間口を狭めるのはもったいない一方で、ありとあらゆる業者に話を出せば情報漏洩のリスクも生じます。中谷氏は、地銀は情報管理の面で信頼できるため最初の相談相手として間違いないとし、信頼できる相手から順に相談していくことを勧めます。野﨑も、YouTubeを見ていない経営者にとって銀行の看板は信用度が高く、まず銀行に相談するのはごく普通の選択だと話しています。

一方で中谷氏は、銀行には転勤があることも付け加えます。担当者や支店長が変われば関係が少し疎遠になったり、前の担当者のほうがよかったと感じたりすることもある。どこに相談するかは、各オーナーの状況に応じて判断することになります。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

私のところにご相談いただいたお客さんには、必ず何社かと面談していただくようにしています。その結果、中谷さんを選ばれる方もいれば、あえて仲介を選ばれる方もいます。富裕層のオーナーにDMを送ること自体を否定はしませんが、1対1で売り込むのではなく、お問い合わせいただいた方に選択肢をお渡ししたいのです。

ですから「私の話だけを聞いてください」とは言いません。中谷さん、地方銀行、税理士の先生、どこに聞いていただいても変な結果にはならないと思います。安全に、納得のいく結論を出していただきたいと考えています。

インタビューを振り返る野﨑繁裕 インタビュー
まとめ
対談を経営の視点から振り返ります。

今回のインタビュー動画はいかがでしたか。ここからは、M&Aスタジオ代表・野﨑繁裕(中小企業診断士)が対談を振り返り、明日の経営に活かせるポイントを整理します。

このインタビューから持ち帰る3つの学び

  • 提携の効果は、拠点の「重なり」ではなく「補い合い」で測る
  • 買い手探しの成否は、候補リストの長さより、決裁者に届く関係があるかで決まる
  • 相談先は1社に絞らず、信頼できる相手から順に話を聞き、最後は自分で決める

今回の提携は、株式の持ち合いとしては小さな一歩かもしれません。それでも、滋賀銀行に19年在籍し、大阪で拠点を縮小していく流れも見てきた立場からすると、新たに店舗を出さずに大阪や兵庫の取引先へ手が届くようになる意味は小さくありません。中谷さんが池田泉州銀行で経験した合併と同じように、地域が重ならず距離も近い銀行どうしの結びつきは、M&Aでいえば「買い手を探せる範囲」を素直に広げます。

中谷さんは、連携先が強くなればCloserも強くなるこの関係を「すごく美しい構造」と表現していました。地銀、FA、そして私たちのような立場は、本来は奪い合う関係ではなく、それぞれの強みを持ち寄る関係です。地銀は長年の取引で社長に直接届く信頼を持ち、FAは売り手側の支援や買収監査(DD)の専門性を持つ。どちらが上かではなく、その案件に何が必要かで組み合わせが決まります。

だからこそ、経営者の方には相談先を最初から1社に決めてしまわないでほしいと考えています。情報の扱いには注意しながらも、間口を必要以上に狭めず、複数の話を聞いて比べ、最後はご自身が納得して決める。それが、安全に納得のいく結論へ近づくいちばん確かな道筋だと思います。

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