相続税評価の見直しは「大増税」か? 非上場株3つの評価方式と、M&A検討後も1割が同族承継を選ぶ現実

  • 公開日2026年10月20日

この記事でわかること

  • 非上場株の相続税評価を決める3つの評価方式と、適用が決まる基準
  • 実態が同じでも評価100億円が30億円になり得る節税スキームを、国税庁が問題視する理由
  • 評価の話と課税の話を分けて考えるべきだとする専門家の視点
  • M&Aを検討しても約1割が最終的に同族承継を選ぶという現場の実態
  • 「継ぐ不幸・継がせる不幸」を避けるために、経営者がまず始めるべき現状把握

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国税庁が非上場株式の相続税評価の見直しに動き、世間では「大増税だ」という声が上がっています。しかし、日本M&Aセンターの元専務執行役員で、現在は株式会社M&Aクオリティ代表取締役を務める澤村八大氏は、「私の捉え方は違う」と言います。問われているのは税金の多寡ではなく、中小企業の株式の評価はそもそもどうあるべきかという制度の問題だというのです。評価の仕組み、国税庁の問題意識、同族承継の現実、そして経営者がいま取るべき行動を、M&Aスタジオ代表の野﨑繁裕が聞きました。

非上場株の相続税評価は、どのように決まっているのか?

上場株には市場で日々動く株価があります。一方、中小企業の株にはマーケットにおける株価がありません。それでも相続が発生すると、税務上は「あなたの会社の株価は◯億円です」と評価されます。

澤村氏によると、その評価方法は大きく分けて3つあります。配当をベースにする「配当還元方式」、類似する業種の上場会社から株価を算出する「類似業種比準方式」、会社が持つ純資産をベースにする「純資産方式」です。どれを適用するかは、従業員数や売上の規模、業種といった会社の規模と、株主の立場によって決まります。会社を支配する同族株主なのか、少数株主なのかで、使う評価法が変わる仕組みです。

なぜこれほど複雑なのか。澤村氏は成り立ちをこう説明します。少数株主は経営に口出しできず、権利は実質的に配当しかないため、配当還元方式が用いられる。同族株主には会社の支配権があり、解散すれば純資産が手元に入るため、純資産ベースで評価したほうがよい。さらに上場会社に比するような規模の会社も出てきたため、上場株価を参考にする類似業種比準方式がある、という考え方です。

類似業種比準方式そのものも改正を経ています。現在も配当・純資産・利益の3要素で比較しますが、かつては3つを単純平均していたものが、改正で利益を重視する形に変わりました。どの方式が適用されるかによって、マーケットのない中小企業の株価が上下し、相続税の額も変わる。同族で事業を承継したい経営者にとって、頭の痛い構造です。

国税庁は、いまの評価のどこを問題視しているのか?

澤村氏によれば、会社ごとに事情が異なるため絶対ではないものの、配当還元方式が最も低く、次いで類似業種比準方式、純資産方式が最も高くなる傾向があります。

この差が節税ニーズを生みました。相続が発生したとき、本来なら純資産ベースの評価になるところを、工夫して類似業種ベースの低い株価にできないか、配当還元まで持っていけないか——。そうした助言をする相続コンサルが増え、多くの節税スキームが登場したといいます。澤村氏が挙げた例では、同じ会社で普通なら100億円の評価なのに、スキームを使うと実態は何も変わらないまま30億円の評価になる。

実態が変わらないのに評価額が大きく変わるのは、税の公平性の観点からおかしい。これが国税庁の問題意識の大前提です。国税庁はこれまで、こうした手法を過度な節税・租税回避として阻止しようとし、納税者側との間で税務訴訟も数多く起きてきました。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

一般の経営者からすれば、ちゃんと会社を経営して利益を出し、納税もしてきたのに、という感覚があると思います。ただ澤村さんのお話を聞くと、国税庁側の問題意識にも一定の合理性はあると感じました。

事業承継にそれだけ税金がかかるからこそ、オーナーには税金を圧縮したいというニーズが生まれ、複雑な節税コンサルが横行した。今回の見直しは、そうした背景の延長線上にあるのだと理解しています。

今回の見直しは、同族承継への「直接攻撃」なのか?

「事業承継への直接攻撃か」という問いに、澤村氏は「そこは違う」と答えます。国も中小企業の事業承継問題を何とかしなければならないという認識を持っており、事業承継税制として、事業を継いでいく人は次の代に引き継ぐまで納税しなくてよいという制度を用意してきました。

しかし、この制度は適用が少なかったといいます。導入初期には従業員を減らせないといった縛り(のちに見直し)やモニタリングがあり、経営の自由がないと受け止められたのか、採用は進みませんでした。制度は一度延長されたものの次の延長はないとされており、澤村氏は、今回の評価見直しとは別に、事業承継税制をどうするかの議論が始まり、国が新たな施策を出してくると見ています。

そのうえで澤村氏が強調するのは、「評価の話と税制の話は分けて考えなければいけない」という点です。絶対的に正しい評価はないが、あるべき評価はある。問題は、すぐに現金化できるわけでもない株について、相続が発生した段階で即座に税金を払えと求めることのほうだといいます。

持論として澤村氏が示したのは、たとえば税務上の時価が10億円だとしても、きちんとした事業承継であればその10%の評価で課税するといった、評価は評価として課税とは切り分ける考え方です。本質は、事業承継がストレスなく進んでいくこと。そこに主眼を置いた制度であるべきで、税金を多く取ることに主眼を置くとおかしくなる、と澤村氏は語ります。

ただし、事業が続けば減免するとした場合、賃貸用不動産を資産管理会社に移しただけのようなケースまで「現金化していないから課税しない」となりかねません。課税の公平性と事業承継の円滑化のバランスをどう取るか。その線引きは非常に難しいが大事だ、というのが澤村氏の見立てです。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

私自身は、非上場株式に相続税がかかるのはある意味当たり前だと理解し、それを起点にさまざまな助言をしてきました。

しかし、お金に変わらなければ株主名簿に名前が書いてあるだけの株に、親が亡くなった瞬間に相続税がかかる。そこへの違和感というのは、そもそも論として非常に深い話だと思います。

子に継がせるかM&Aか——承継の現場では何が起きているのか?

インタビューでは、相続税負担に苦しむ後継者の実態も語られました。良い会社ほど苦労している、というのです。高額な役員報酬を取っている社長が、実は株式の買取資金や相続税のために銀行から借り入れ、その返済のために報酬を取らざるを得ない。役員報酬が5,000万円や1億円あっても、所得税・住民税が課されて半分ほどしか残らず、返済すれば手元にはあまり残りません。父親が亡くなった際に死亡退職金で会社の財産を一気に減らし、納税資金は確保できたものの、会社が債務超過に近い状態になって苦しくなったという相談もあったといいます。

澤村氏がよく聞くのは、2代目のオーナーが「自分が相続の対策でものすごく苦労したから、この苦労を子供にはさせたくない」と相談に来るパターンです。澤村氏の基本姿勢は「継ぎたい人が継げばいい」。息子だから継がなければならないわけでも、従業員が可愛いから継がせるわけでもなく、継ぎたいという人がたまたま息子だった、たまたま従業員だったという話だといいます。長男だからと、やりたいわけでもない事業を相続税負担まで背負って継ぐ。澤村氏はそれを「継がせる不幸・継ぐ不幸」と表現します。

一方で、同族承継が消えるわけではありません。澤村氏が見てきた案件では、M&Aの受託後であっても、相手は見つかったが「やっぱり息子が継ぐ」と最終的に同族承継を選ぶケースが1割ぐらいあったといいます。売りのアドバイザリー契約を結んだ後でこの割合ですから、その前段の検討まで含めれば、同族承継を選ぶ経営者はさらに多いと考えられます。

ただ、意識は世代とともに変わっています。52歳の澤村氏は、自身の世代は「ギリギリ長男だから継がなければ」という感覚が残っているものの、次の世代は家業を継がなければならないとはほぼ考えていない、と話します。同族承継が絶対的だという時代は終わりつつあるのかもしれません。

経営者は、いま何から始めるべきなのか?

「うちも相続税が大変だ」と感じている経営者が最初にすべきことは何か。澤村氏の答えは「まずは現状把握」です。自社株の相続税評価がどのくらいで、税金がいくらかかり、それを払えるのか。気の利いた顧問税理士であれば、毎年の相続税評価を出してくれることもあるといいます。

そのうえで、あまり考えたくないことかもしれないが、自分に何かあったとき、本当に子どもに承継させる気があるのかを考える。あわせて押さえておきたいのが、相続税評価とM&Aでの株価はまったく違い、M&Aのほうが何倍も高いケースが多いという点です。ある程度の当たりをつけて把握しておくことが大事だといいます。

把握しないまま経営者が突然亡くなると、株主名簿に名前が書いてあるだけのものに多額の税金がかかり、子どもが大変な苦労をする。澤村氏はそうしたパターンをよく聞くと話し、30代・40代ならともかく、50歳を超えたら責任を持って考えるべきだと指摘します。同世代の経営者には、できれば家族も巻き込んで事業承継の話をしたほうがよい、とも語りました。

選択肢を比較するうえで、M&Aへの不安を抱く人もいるでしょう。澤村氏は、数多くの案件を見てきた現場の感覚として、9割以上のオーナーは満足しているといいます。変わった事件ばかりが取り上げられ怖い世界のように見られがちだが、「M&A仲介は悪だ」という議論は違う。利益相反を指摘されることはあり得るものの、案件によっては売り手・買い手の両方が見えているからこそ良い形で収束することもあり、場合によってはFA形式のほうが売り手の利益を守れるケースもあるため、中立的に助言しているといいます。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

私はM&Aのメディアを運営していますが、お問い合わせが来たときには、本当に従業員に承継できないのか、同族承継はできないのかという話を必ずするようにしています。同族承継を飛ばしてご相談に来られた方でも、息子さんが会社に入っているなら「息子さんはどうなんですか」と聞きます。

同族承継、従業員承継、第三者承継。選択肢はすべて検討し得るもので、正解は一つではありません。大事なのは、それぞれをきちんと比較して選ぶことだと考えています。

インタビューを振り返る野﨑繁裕 インタビュー
まとめ
対談を経営の視点から振り返ります。

今回のインタビュー動画はいかがでしたか。ここからは、M&Aスタジオ代表・野﨑繁裕(中小企業診断士)が対談を振り返り、明日の経営に活かせるポイントを整理します。

このインタビューから持ち帰る3つの学び

  • 「増税か否か」の前に、評価の仕組みと制度の狙いを分けて理解する
  • 承継の方法は一つに決めつけず、同族・従業員・第三者を並べて比較する
  • 万一に備え、自社株の評価額と納税できるかを平時のうちに把握しておく

非上場株の相続税評価の見直しは、「大増税」という言葉で語られがちです。しかし澤村さんのお話を通じて見えてきたのは、問われているのが税金の多寡ではなく、マーケットのない中小企業の株式をどう評価するかという制度の問題だということでした。3つの評価方式のどれが適用されるかで評価額が大きく動き、そこに節税ニーズとスキームが生まれてきた。国税庁の問題意識にも一定の合理性があると、私自身も感じました。

一方で、澤村さんが指摘した「すぐに現金化できない株に、相続の段階で即座に税金がかかる」という違和感は、私にとっても考えさせられるものでした。非上場株に相続税がかかることを当然の前提として助言してきた立場からすると、評価と課税を分けて考えるという発想は、制度の本質を見直す問いだと受け止めています。

そして何より印象に残ったのは、「継ぎたい人が継げばいい」という澤村さんの言葉です。税制がどう変わるにせよ、会社には家族だけでなく従業員や取引先がいます。同族承継・従業員承継・M&Aのどれが正解かは会社ごとに違います。まず自社株の評価と納税の見通しを把握し、家族とも向き合いながら選択肢を比べること。それが、継ぐ側にも継がせる側にも不幸を残さないための第一歩だと考えます。

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