PEファンドに会社を売るべきか?――選ばれる会社の「4つの観点」と、ファンドが企業価値を上げる「3つの手法」

  • 公開日2026年10月22日

この記事でわかること

  • PEファンドと事業会社で、譲渡後の経営がどう変わるかの違い
  • 「事業会社のほうが高値がつく」という通説が当てはまらなくなっている理由
  • ファンドが投資先を見極める収益性・安定性・成長性・市場性の4つの観点
  • ファンドが収益を上げる3つの手法と、近年ロールアップが重視される理由
  • 一部の株式を残して、成長後に残りを売却するスキームの中身

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会社の譲渡を考えたとき、譲渡オーナーに共通する悩みが「どこに売るのか」です。売却先の選択肢は実は幅広く、その一つにプライベートエクイティファンド(PEファンド)があります。ただ、ファンドに馴染みのない経営者は多く、事業会社との違いや、どんな会社なら選ばれるのかは見えにくいものです。今回は、ゴエンキャピタル株式会社 代表取締役の前川拓哉さんに、PEファンドを買い手に選ぶメリットと、ファンドへの譲渡を検討すべき経営者像を伺いました。

PEファンドは、事業会社と何が違う買い手なのか?

売却先として経営者がまず思い浮かべるのは、自社より少し規模の大きい地域有数の事業会社や、上場している大手企業です。前川さんによれば、PEファンドを最初からイメージする方はほとんどいないといいます。しかし両者は、買う目的が大きく異なります。

事業会社は、自社がお金を出して会社を譲り受けるため、どうしても親会社の意向が入ります。外注している業務を内製化したい、特定の人材が欲しいといった目的で買収するため、親会社の判断で経営方針が変わることがあります。たとえ思い入れのある事業でも、採算が合わなければ撤退を求められる可能性もあります。

これに対してファンドは、「こういうことをやりたいからこの会社を買う」という構造がビジネス上ありません。対象会社のビジネスモデルと強みを理解したうえで譲り受け、その会社が単体でいかに伸びるかに焦点を当てます。前川さんは、ファンドがよく口にする「自分たちは黒子です」という言葉を、まさにその通りだと話します。譲渡後に方針変更やビジネスモデルの変化を受けにくいことが、売り手から見たファンドの最も大きなメリットです。

価格面でも、ファンドが不利とは限りません。事業会社には投資予算があり、1案件に使える金額が決まっていたり、一定額を超えると稟議が必要になったりと、別の論理が働くことがあります。一方、投資することがビジネスそのものであるファンドは、対象会社の成長に焦点を当てて投資額を決めます。調達した資金を使えなければリターンを出せず事業が成り立たないため、「買えないこと」がファンドにとって大きな怖さでもあります。こうした事情から、ファンドのほうが高い価格を提示する場面は頻繁にあるといいます。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

私自身、以前は相乗効果を想定しやすい事業会社のほうが株価は高くつくと考えていました。ところが最近は、財務内容の良い会社に複数社が入札する形になると、最後に残った札が全部ファンドだったということが珍しくありません。「事業会社のほうが高い札が入る」という前提は、もうあまり正しくないと感じています。

ファンドに選ばれるのは、どんな会社なのか?

前川さんがまず強調したのは、誰でもファンドに売れるわけではないという点です。ファンドには、仲介会社や銀行・証券会社からほぼ毎日のように案件の紹介が届きます。その中から選ばれるかどうかは、結局のところ「そのビジネスが強いか」にかかっています。前川さんは、見極めの観点として収益性・安定性・成長性・市場性の4つを挙げます。

収益性は、粗利が高く、利益率が高い水準で出続けるビジネスモデルかどうか。安定性は、業績に波がないかどうかです。たとえば半導体関連のように価格の変動が大きい事業や、1件あたりの受注規模が大きくリードタイムが長いために期ずれを起こし、年間売上が大きくぶれる事業は、ファンドとしては手を出しにくいといいます。

成長性は、安定しながらも売上がしっかり積み上がっていくかどうか。市場性は、マーケットから求められている領域かどうかで、前川さんは近年の飲食店のフランチャイザーに高い倍率がつく傾向を例に挙げました。

4つを総合すると、しっかりしたビジネスモデルがあり、それが外部環境に適合していて、数字にぶれがなく右肩上がりで反映されている会社ということになります。対談では、自社がそうした会社だと考えるならファンドとの資本業務提携は有効な選択肢になる一方、ファンドへの譲渡は「針の穴に糸を通す」ほど難しく、ファンドからも選ばれる必要があるという指摘もありました。

ファンドは、どうやって企業価値を上げるのか?

ファンドは安く買って高く売り、その差を収益にする投資業です。それでも高い株価で買うのであれば、何らかのノウハウで事業を成長させなければ利益の源泉が生まれません。前川さんは、一般論としてファンドが収益を上げる施策は大きく3つあると説明します。

1つ目は、マルチプル・アービトラージです。収益の3倍で買って5倍で売るといった、評価倍率の差で利益を得る手法です。ただ、市場がこの仕組みを理解してきたことで売り手にも一定の相場観があり、入札になるケースもあるため、良い会社を低い倍率で買うことは最近難しくなっています。

2つ目は、レバレッジです。LBOローンと呼ばれる借入れで買収資金を調達し、その借入れを返済していくことでネットデット(純有利子負債)が減り、その分だけ株価が上がります。利益が安定していれば毎期どれだけ積み上がるかを計算できるため、自分たちが出した資金に対して高いリターンを見込めます。

3つ目がバリューアップです。対象会社に経営のプロを送り込んで収益改善を図るもので、かつてはコスト削減を進めるファンドもありました。前川さんによれば、最初の2つはどのファンドでも行えることで、差が出るのはバリューアップ、つまりファンドが対象会社のことを考えて成長させられるかどうかです。その手法として近年どのファンドも力を入れているのが、追加買収で事業体の規模を大きくし、生産性と収益を高めるロールアップです。

たとえば人材不足が続く電気設備工事では、近いエリアで複数の会社を買収して仕事の稼働率を高める。設備投資の負担が大きい建機レンタルでは、稼働しない期間の機材を追加買収した会社に回して稼働率を上げる。どちらが上か下かではなく、ファンドがハブとなって会社が横並びにつながる形です。前川さんが手がけた実例でも、縦割りで分業コストのかさむ広告制作の会社がファンドに譲渡された後、Webプロモーション・Web制作の会社やテレビCM制作の会社とグループになり、案件を融通し合うことでグループ全体の収益を高めたといいます。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

業界の合従連衡を合理的に進めて、強い会社がさらに強くなっていく。ロールアップは非常に合理的なビジネスモデルだと思います。実際に私がご紹介したお客様の中にも、ファンドへ譲渡された後、何事もなかったかのように日々が過ぎていると話してくださる方がいます。

ファンドへの譲渡を検討すべきなのは、どんな経営者か?

前川さんが一つの典型として挙げたのは、経営を引き継いだり創業したりして5年・10年やってきた経営者です。一定の成果は上がり、引退までの間に横ばいや自分なりの成長はできる。しかし自分の経営者としての伸びしろが見えてきて、何かレバレッジが効く成長の可能性はないかと模索している。こうした経営者には、ファンドが非常に向いているといいます。

理由の一つは、目指す方向が一致することです。ファンドは会社がいかに伸びるかに焦点を当てて経営するため、成長を望む経営者とベクトルが合います。もう一つは、スキームの柔軟さです。事業会社への売却では100%買収が想定されやすいのに対し、ファンドであれば一部の株式を残してマジョリティを譲渡し、成長が得られたタイミングで残りを売却するという設計ができます。まだ伸びると思う会社の利益をいったん確定させ、その後のアップサイドはファンドと一緒に伸ばしながら、最後に残りの2割なり3割の利益を享受する、という考え方です。

特に40〜50代でまだ自分で経営を続けたいが、どこかで成長の限界を感じている方には有効だといいます。5年・10年会社を伸ばしてきた経営者は、属人性の強いパワフルな経営をしているケースも少なくありません。60代・70代であればファンドは退任後を懸念しますが、若い経営者の場合は、残ってもらわなければ収益の源泉がないと考えるファンドが多くあります。株式を一部残すことは、経営者とファンドの利害を一致させる手法として働きます。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

株を持っていれば、会社の利益を上げていくことと本質的にベクトルが合います。全国からご相談をいただく中で、「御社であればこのくらいの評価は見込めますよ」とお伝えすると驚かれるケースは少なくありません。株価だけでなく、会社の成長もしっかり実現していけるスキームが組めると知って、驚かれる方がいまだに多いのが実情です。

PEファンドは、譲渡企業そのものの成長に焦点を当てる買い手です。ただし、選ばれるには事業の強さが問われ、ファンドの側にも企業価値を高める力の差があります。売却を考える経営者にとっては、どこに売るかと同じくらい、譲渡後に会社をどう伸ばしたいかを先に描いておくことが、相手と条件を選ぶ出発点になります。

インタビューを振り返る野﨑繁裕 インタビュー
まとめ
対談を経営の視点から振り返ります。

今回のインタビュー動画はいかがでしたか。ここからは、M&Aスタジオ代表・野﨑繁裕(中小企業診断士)が対談を振り返り、明日の経営に活かせるポイントを整理します。

このインタビューから持ち帰る3つの学び

  • 売却先を選ぶときは、価格より先に「譲渡後に誰が何を目的に経営するか」を見る
  • 買い手に選ばれる会社は、利益の高さだけでなく、数字のぶれの小ささで評価される
  • 自分の成長余地に限界を感じたら、すべてを手放す前に「一部を残して一緒に伸ばす」道を考える

会社の譲渡先と聞くと、多くの経営者は同業や地域の有力企業、上場企業といった事業会社を思い浮かべます。PEファンドは、名前は知っていても具体的な姿が見えにくい買い手かもしれません。今回の前川さんのお話で整理できたのは、両者の違いは「規模」でも「価格」でもなく、買う目的にあるということでした。事業会社は自社グループの戦略の中で会社を取り込み、ファンドは譲り受けた会社そのものが伸びるかどうかに焦点を当てます。この違いが、譲渡後の経営方針の変わりやすさにそのまま表れます。

一方で、ファンドは誰の会社でも買うわけではありません。ほぼ毎日のように案件の紹介を受けるなかで、収益性・安定性・成長性・市場性という観点から厳しく選別しています。そして近年は、安く買って高く売る手法が通用しにくくなり、追加買収による相乗効果を含めた「バリューアップ」の力がファンドの差を生むようになっています。売り手にとっては、ファンドの選び方そのものが、譲渡後の会社の行方を左右すると言えるでしょう。

前川さんは「売却がゴールではなく、その後どういうふうに幸せになっていくかがゴール」と話していました。一部の株式を残し、成長を見届けてから残りを売却するスキームは、まさにその考え方を形にしたものです。会社を売るかどうかではなく、売った後にどんな人生と会社の姿を描くか。そこから逆算して相手と条件を選ぶことが、後悔のない譲渡につながるのだと改めて感じました。

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【売ってから気づいても手遅れ】M&Aで後悔しやすい社長の特徴...あなたは大丈夫?【教えて野﨑さん/第35回】

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