共同経営者の債務放棄で背負った5億円——自己破産を選ばなかった起業家が、返済実績を150億円の銀行融資につなげた道筋

  • 公開日2026年10月22日

この記事でわかること

  • 大学3年で渡米した学生が「商売」を仕事に選んだ理由
  • 海外勤務と家業の手伝いを経て、資産形成の塾を始めた経緯
  • 紹介した商品で受講生が損をしたとき、紹介者として選んだ道
  • 33歳で背負った5億円の債務を、自己破産せずに返し切った方法
  • 返済で得た信用を、設立1年半・150億円の調達につなげた仕組み

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ハワイを拠点に、日本・アメリカ・香港・セーシェルの4カ国で5社を経営し、ベンチャーキャピタルへの出資やアメリカでのモーゲージ事業を含めて計7つの事業を手がけるMORTGAGE TREASURYの中野代表。その歩みは順風満帆ではありませんでした。家族の反対を押し切っての渡米、リーマンショック、祖父と父の間での葛藤、そして共同経営者が債務を放棄したことで背負った5億円の債務。中野代表は、どの場面で何を考え、どう判断してきたのか。インタビューから整理します。

大学3年で渡米した学生は、なぜ「商売」を仕事に選んだのか?

京都府で代々続く家に生まれた中野代表は、大学生までは自身を「本当に平凡な学生」と振り返ります。転機は、アルバイト先でアメリカ帰りの先輩から現地の話を聞いたことでした。このまま学校を出てサラリーマンになる道が、本当に自分の人生を豊かにするのか。その問いを確かめるため、大学3年で1年間の期限付きで渡米を決めます。祖父からは強く反対されましたが、貯金と、自分のバイクを売った約30万円を資金に充てると伝え、説得しました。

サンフランシスコの語学学校に通いながら、現地のアメリカ人と交流し、仕事の現場にもついていく日々。ロサンゼルス近郊の安宿で知り合ったアメリカ人が、ラスベガスへ携帯電話を売りに行き、一晩で300万円を稼いで帰ってきたことに衝撃を受けます。自分が長い時間をかけて手にした30万円の10倍を一晩で売り上げ、しかも客から感謝されている。専攻していたバイオテクノロジーの研究職ではなく、自分には「商売、経営だ」と気づいた瞬間でした。

帰国後は、経営者の生の声を聞けることを理由にコンサルティング会社へ就職します。日本で1年働いたのち、アメリカ法人へ駐在。日系企業の現地法人に組織開発やマーケティングを提案し、アメリカ法人を2年で黒字化させました。

海外勤務と家業の手伝いを経て、なぜ資産形成の塾を始めたのか?

アメリカ駐在3年目にリーマンショックが起こり、企業の研修費は真っ先に削られる状況になります。中野代表はニューヨークから上海へそのまま転勤し、上海万博に沸く中国で約2年半、日系企業向けの営業を続けました。その後、本社勤務の辞令が出たことを機に、30代前半で会社を辞め、祖父が創業した実家の定食屋を手伝います。

しかし家業では、新しいことに挑む祖父と、言われたことをきっちりこなす父の間で、提案がなかなか通りませんでした。中野代表は二人を「パイオニアとカーペンター」にたとえます。先に祖父の了承を得てから父に話しても受け入れられない。その繰り返しで、物事が決まらない状態が続きました。

次の道を開いたのは、上海駐在時に購入していた投資信託でした。日本で資産形成セミナーに参加すると、最終的に売りたいのは中野代表自身が買った商品であり、日本の金融商品より手取りが多いという説明だったのです。中野代表は香港やシンガポールで金融商品と税制を学び、利回りに大きく影響するのは税制であり、日本に住む限りどの国の商品を買っても課税の仕組みは同じだと理解します。そのうえで、日本にいながら手残りを増やす考え方を伝えるため、最初は無料で、のちに月額制のサロンとして資産形成の塾を始めました。

紹介した商品で受講生が損をしたとき、紹介者に何ができるのか?

塾の参加者は、地元の友人や学生時代の縁をたどって集めました。3人から始まり30人ほどになった頃、中野代表は塾を一度打ち切ります。理由は、受講生の期待に応えられなくなったことでした。

受講生から「何を買えばいいのか」と聞かれても、中野代表は証券外務員の資格を持っておらず、自ら商品を提供できません。そこで証券会社の担当者を紹介しましたが、購入された商品の中には損失が出たものもありました。誰からも責められはしなかったものの、契約関係がない以上、紹介者が損失を補填するのも筋が違う。それでも何もしないのは「人の道として申し訳ない」と、無力感に苛まれたといいます。

そこで中野代表が出した答えが、自分が手がける事業に投資してもらうことでした。自分の事業であれば、諦めずに働き続けることで、少しでも投資家の資金を増やせる。紹介者としての責任を果たすには「これしかない」と考え、自ら事業を始める方向へスタンスを変えていきました。

5億円の債務を背負ったとき、なぜ自己破産を選ばなかったのか?

代理店やフランチャイズなどの事業を手がける中で、中野代表は信頼していた経営者の連帯保証人となり、大きな資金を会社で調達しました。しかし最初の事業が失敗し、二人で返していくはずだった債務を、その経営者が「もう返せない」と放棄します。33歳頃のことでした。残ったのは、社債や個人間の金銭消費貸借で集めた投資家に対する5億円の債務です。日本の税制では、5億円を手元に残すには10億円近い利益が必要になります。

結婚したばかりの妻からは、自己破産してサラリーマンに戻ってほしいと言われ、中野代表自身もそれが賢明だと感じたといいます。それでも、命の次に大事なお金を託してくれた一人ひとりの顔が浮かびました。自分は自己破産でゼロになれても、投資家への責任は果たせない。妻に「3〜5年で挽回するから少しこらえてくれ」と頼み、返済の道を選びます。

返済の手段は、金融のレバレッジでした。商品開発のパートナーとともに新たな会社を立ち上げ、4〜5年かけて企業価値を6億〜7億円まで高め、創業時から持っていた株式を個人に相対取引で売却。実際には一括ではなく、毎月少しずつ投資家のもとへ返しに通いました。「毎月持ってくるのはお前くらいだな」と言われるようになり、やがて完済前に追加出資してくれる投資家も現れ、返済は加速していきました。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

起業して育てた会社の株式を最終的に譲渡し、その資金で債務を返済する。これはある意味でM&Aだと思います。そして、返済の過程で投資家からの信用を得ていったことが、次の事業につながっています。

共同事業で生じた5億円を一人で返すというのは、私だったら返さない、というより返せないと思います。それだけ重い決断だったはずです。

返済で得た信用を、どうやって150億円の調達につなげたのか?

その後、中野代表はアメリカで金融ライセンスを取得する過程で縁のできた弁護士とともに、リーマンショック時の不良債権を整理する事業をハワイで始めます。銀行から差し押さえ物件を安く仕入れ、市場価格より少し安く売る事業です。現在は、アメリカ人が所有する不動産に第一抵当を設定してお金を貸す、不動産担保ローン(モーゲージ)事業も展開しています。中野代表によれば、市場価値の66%程度までしか貸さず、借り手は返済スコアが最も高い層に絞っているといいます。

この事業の鍵は、銀行からのレバレッジ融資でした。実績のない会社には銀行は貸しません。そこで中野代表は、最初の投資家への還元を厚くして実績を積み、JPモルガン・チェースを含む複数の金融機関の間で、資金と債権の売買を銀行の中で完結させる信託スキームを構築しました。資金に自社が一切触れられない仕組みに約1億円をかけたことで信頼が高まり、設立1年半の会社が30億円の実績に対して150億円の融資を受けるに至ったと語ります。

こうした仕組みづくりの背景には、5億円の失敗から得た学びがあります。人柄が良さそうだと思っても、一緒に事業をする人に魔が差すこともあれば、状況が変わることもある。中野代表は「人だけで評価するのは本当に危ない」と語り、人の良さと、誰もが信用できる機関がお金と権利を管理する仕組みの両方が大切だと強調しました。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

投資は、リスクの特定がすごく大事だと思っています。どこにリスクがあるのかを理解したうえでないと、何に対して投資しているのかわからなくなります。

私は投資を推奨するためにこのインタビューをしているわけではありません。投資判断は自己責任です。元銀行員の私であれば、実際にお金を返してもらった人に直接話を聞き、事業のデータを確かめたうえで判断したいと考えます。

インタビューを振り返る野﨑繁裕 インタビュー
まとめ
対談を経営の視点から振り返ります。

今回のインタビュー動画はいかがでしたか。ここからは、M&Aスタジオ代表・野﨑繁裕(中小企業診断士)が対談を振り返り、明日の経営に活かせるポイントを整理します。

このインタビューから持ち帰る3つの学び

  • 逃げ道がある場面ほど、自分に託されたものへの責任から判断する
  • 返済の実績は、次の資金を呼ぶ信用に変わる
  • 人柄だけで判断せず、人と仕組みの両方で信頼を確かめる

中野代表のお話を通して強く感じたのは、信用は言葉ではなく行動の積み重ねでしか生まれないということです。共同経営者が債務を放棄し、5億円が一人に残ったとき、自己破産という選択肢はありました。それでも中野代表は「投資家に対する責任は果たせない」と考え、毎月少しずつ返しに行く道を選びました。その姿勢が、完済前の追加出資という形で返ってきたことは、信用の本質をよく表していると思います。

論語に「信なくば立たず」という言葉があります。事業を立て直すときも、新しい事業で大きな資金を集めるときも、土台になるのは周囲からの信頼です。中野代表が返済の実績をもとに投資家の信頼を取り戻し、それを次の事業の調達につなげていった流れは、企業経営やM&Aの世界にも通じる話だと感じました。

一方で、中野代表自身が「人だけで評価するのは本当に危ない」と語っていた点も見逃せません。どれほど信頼できそうな相手であっても、仕組みとして確かめられる裏付けがなければ判断を誤ることがあります。人を見ることと、仕組みやエビデンスを確かめること。その両方をそろえて初めて、大切なお金や事業を託す判断ができるのだと、改めて考えさせられたインタビューでした。

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