返済率98%の金融の仕組みで「売れないバイク」が売れる商品に——アフリカ特化VCに学ぶ、新興国で日本の製品が売れる条件

  • 公開日2026年10月21日

この記事でわかること

  • アフリカ54ヶ国のうち、投資対象を3ヶ国に絞っている理由
  • 「アフリカは危ない」というイメージに対する、現地8年の実感
  • 売れなかったホンダのバイクを、年利40〜50%のアセットファイナンスで売れる商品に変えた仕組みの中身
  • 返済率98%を支えた「週6日返済」と、早めにバイクを回収する運営
  • ジョイントベンチャーをM&Aで売却するまでの経緯と、VC投資の出口の実際

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アフリカで売れていなかったホンダのバイクが、金融の仕組みを組み合わせたことで、順番待ちが出るほどの商品に変わりました。仕掛けたのは、アフリカ特化のベンチャーキャピタル、UNCOVERED FUNDの寺久保さんです。寺久保さんは2019年に独立し、現在はアフリカのスタートアップ36社に投資しています。54ヶ国の中から国を絞る基準、「アフリカは危ない」というイメージとの向き合い方、返済率98%を支えた現場の運営、そしてM&Aによる売却まで。M&Aスタジオ代表・野﨑によるインタビューから整理しました。

いまのアフリカには、どこに事業機会があるのか?

寺久保さんは2018年にアフリカへ移住し、アフリカと関わって8年ほどになります。その間に現地企業の事業成長率が大きく伸びただけでなく、街そのものが目に見えて変わったといいます。高速道路が急にでき、高層マンションの建設ラッシュが起き、郊外のショッピングモールに家族連れが買い物に来る。寺久保さんは、8年前と比べて考えられないほどのスピードだと話します。

ただし、アフリカは54ヶ国あり、地域ごとに言語も文化も大きく異なります。寺久保さんによると、GDP上位10ヶ国だけでアフリカ大陸全体のGDPの76%を占めるため、見るべき国は自然と決まってくるそうです。UNCOVERED FUNDが特に注目しているのは、次の3ヶ国です。

1つ目はナイジェリアです。人口は2億人を超え、インド、中国に続いて世界で3番目の人口になる国とされています。ラゴスには1700万人が住み、インターネット人口も世界7位です。2つ目はエジプトです。文化圏は中東に近く、人口は1億人を超え、ケニアやナイジェリアの約3倍の購買力があります。NetflixやDisney+が進出し、5年ほど前にはAmazonも参入しました。2200万人が住むカイロでは、政府主導で新しい街の開発も進んでいます。3つ目はケニアです。国の規模は大きくありませんが、再生可能エネルギーの比率が94%ほどに達する脱炭素先進国です。

投資テーマは、デジタル金融、流通DX、気候変動の3つです。寺久保さんはまず都市のインフラに注目しています。デジタル金融では、銀行口座を持つ人が限られ、送金や決済に課題があり、企業も個人もお金を借りにくい状況を、金融の側面から解決します。流通DXでは、商品価格の70%が物流コストと言われる状況を改善し、必要なものを適切な価格で届けるとともに、日本企業の商品を流通させる仕組みも作ります。気候変動では、都市交通の電動化に注目しています。野﨑代表は、3つとも「アフリカの発展を支える基盤」への投資だと受け止めていました。

「アフリカは危ない」というリスクは、どう見極めればよいのか?

アフリカと聞くと、政情不安や通貨のリスクを思い浮かべる人は少なくありません。寺久保さんも、54ヶ国の中には内戦が起きてしまう小さな国もあると認めています。そのうえでUNCOVERED FUNDが投資対象にしているのは、ある程度の経済規模があり、政治面でも比較的安定性が高い国です。通貨のリスクも踏まえたうえで、これから伸びる市場を見定めて投資しているといいます。

リスクの分散は、二重に効いています。ファンドとして投資する国を分散しているだけでなく、投資先のスタートアップ自体も複数の国で事業を展開しています。たとえばケニアで創業した会社が、周辺のウガンダ、タンザニア、エチオピアに広がっていくのが前提です。

生活面について、寺久保さんは「危ない」と感じる場面は普段の生活の範囲ではあまりないと話します。Uberのタクシーでどこにでも移動でき、Uber Eatsも普及していて、衣食住で危険を感じることはないそうです。ビジネス面でも、政府が制度づくりに力を入れています。ナイジェリアでは暗号資産のユーザーが4000万人ほどいると言われながら、2025年の初めまで国の制度が整っていませんでした。現在は民間企業にライセンスを付与し、事業をオープンに行える仕組みが作られています。日本人や日本企業向けの仕組みも、急速に整ってきているといいます。

一方で、難しさがないわけではありません。ジョイントベンチャーの運営では現地メンバーとのトラブルもあり、会計上は問題なかった処理のルールが変わることもありました。寺久保さんは、現地のパートナーとしてどういう人を押さえておくかが重要だと話しています。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

私は20年ほど地方銀行に勤め、事業をしっかり精査し、担保を取って確実に回収できる先に融資する、かなり慎重な仕事をしてきました。個人でファンドにLP投資をして、スタートアップ投資でお金を失った経験もあります。

そういう立場から見ると、アフリカはどうしても政情が不安定なイメージが先に立ちます。だからこそ、そのリスクをどう捉えて、どう折り合いをつけて投資しているのかは、ぜひ聞いてみたかった点です。日本ほど成熟していない分、いろいろなことが変わり得る。そこに柔軟に対応できるかどうかが問われるのだと感じました。

現地で売れなかった日本の製品は、どうすれば売れるのか?

出発点は、本田技研工業の新規事業チームからの相談でした。アフリカでホンダのバイクがなかなか売れないというのです。寺久保さんによると、他の大陸ではシェア80〜90%が普通なのに、アフリカではインドのメーカーが先行していて、ホンダの強みが活かせていませんでした。

そこで寺久保さんはホンダのメンバーと一緒に、ケニアとルワンダで300人ほどの路上ドライバーに「どうやってバイクを買ったのか」を聞いて回りました。わかったのは、約70%の人が自分のバイクを持っていないことです。現地のお金持ちがバイクを買って若い人に渡し、毎日お金を取り立てる構造が、全体の7割を占めていました。そこで、真面目に働いた人がある程度の金額を積み立てれば、自分のバイクを資産として持てる仕組みを作りました。これが、アセットファイナンスの事業の始まりです。

与信には、銀行のような信用データは使えません。代わりに使ったのが、ケニアで当たり前に使われているモバイルマネーの過去1年分の取引履歴です。キャッシュインとキャッシュアウトの数字を見て、真面目に働いてくれそうな人にバイクを渡し、働いた分から1日約550円を返済してもらいます。金利は年利換算で40〜50%です。現地の標準は100%ほどのため、他のサービスと比べるとはるかに良い条件だといいます。

ただ寺久保さんは、回収率を支えたのは与信判断よりも、その後のコミュニケーションだったと話します。一般的な現地のファイナンス会社は月1回や隔週の返済ですが、同社は週6日の返済にしました。負債が日本円で6,000円ほどたまる、つまり返済が2週間弱滞った時点でバイクを回収します。月1回の返済では最初の2週間に異変に気づけず、知らない間に負債がたまってしまうからです。ナショナルIDで身元も確認しており、完全に返済を踏み倒す人は1.数%にとどまりました。

その結果、2025年には毎月300台ほどの新車を販売し、寺久保さんの見立てでは、ホンダの現地ディーラーを含めても最もバイクを売る会社の一つになりました。購入を待つ人のリストは月に800人ほどにのぼります。会社はUNCOVERED FUNDとスカイライトコンサルティングで立ち上げ、その後ホンダの子会社であるホンダトレーディングが加わって3社で運営していました。寺久保さんは経営と株主の両面で関わり、2025年末にM&Aのオファーを受けて事業を売却しています。

寺久保さんは、日本の製品は少し価格が高いからアフリカには合わないと諦められがちだと指摘します。しかし、現地の人の働き方や求めるものを丁寧に理解していけば、売れるものに変わっていく。売り方次第で、アフリカで売れる日本の製品はたくさんあると話していました。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

年利40〜50%と聞くと高く感じますが、物の価格は他のサービスとの比較で決まります。現地の標準が100%なら半額です。しかも返済率が98%。銀行員の感覚では、かなり儲かる事業に見えます。

ホンダのバイクが売れなかったところに、ジョイントベンチャーを立ち上げて金融の仕組みを作ったら、バイクは売れて、金融は儲かる。毎日回収して、滞ったらすぐにバイクを回収するという運営の細かさも含めて、本当にすごい話だと思います。

想定を超えて伸びる事業と、その出口はどう見えているのか?

VCは投資先が成長した後、M&AやIPOで株式を売却し、その差額を利益とします。アフリカでも出口は広がっています。アフリカのスタートアップが、ニューヨーク証券取引所、ナスダック、エジプト証券取引所、ヨハネスブルグ証券取引所に上場したり、Stripeのようなグローバル企業に買収されたりと、売却の動きが活発になっています。

寺久保さんが手応えを感じた投資先の一つが、国際送金のLemFiです。ヨーロッパやアメリカ、カナダに出稼ぎに出たアフリカ出身の人たちは、母国の家族に送金します。ところが、たとえばイギリスとナイジェリアの銀行がうまく提携していないと経由する銀行が増え、手数料は平均で9%かかります。LemFiは「アフリカ版のWise」のような仕組みで手数料を下げ、世界で200万人超のユーザーを抱え、月間約3000億円が送金されるプラットフォームに成長しました。野﨑代表は、LemFiが「13倍に化けた」と紹介しています。

寺久保さんはLemFiの成長を「想定をはるかに上回るスピード」と表現し、成功も失敗も含めて、成長の速度を自分の尺度で考えてはいけないと実感しているそうです。2輪のEVも同じでした。3年ほど前から注目していたものの、当時は街で1台も走っていませんでした。それでも、輸入に頼るガソリンは戦争前でも1リットル190円ほどです。1日100〜130km走るタクシー事業者は、ガソリン代に1日4〜5ドルを使っています。電気に置き換わればコストは半分以下になるため、ドライバーの視点では明らかに有利でした。新車の2輪バイクの登録台数に占めるEVの割合は、1%ほどから2024年に5%、2025年に15%へと急上昇しています。寺久保さんは、現地の起業家と一緒に市場を作っていくこともアフリカの醍醐味だと話します。

こうした成長を受けて、ファンドの形も変わりました。1号ファンドは6億円規模で、シード期の企業への投資が中心でした。今回のファンドは20億円規模に拡大し、次のラウンド以降もフォロー投資を続け、長期で成長を支えることが狙いです。2018年に寺久保さんがアフリカに移住したとき、最初に訪ねてきたのがマネックスの人たちだったといいます。その縁から、マネックスの持つ知見を掛け合わせ、アフリカで仕組みを作っていくそうです。

人口が減る日本の企業は、アフリカとどう向き合えばよいのか?

寺久保さんは、アフリカが日本人にとって遠く、馴染みのない場所であることを認めたうえで、世界全体で人口が伸びていく中、アフリカは世界人口の4分の1を占めるようになると話します。人口が伸びて経済が伸びていく市場は、確実に世界から注目されます。日本経済が縮小していく中で、日本の企業をどう存続させ、成長させていくか。その答えの一つが、日本の技術やアセットを使って、現地のスタートアップと一緒に事業を作ることだといいます。

寺久保さんの原点は、学生時代のバングラデシュでの経験にあります。ノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行を本で知り、ホームページの問い合わせフォームから連絡すると、5分ほどで受け入れの返事が来ました。3ヶ月ほど現地で学んだのは、マイクロファイナンスを土台に、エネルギーや通信、医療の会社を次々と立ち上げていくやり方です。寺久保さんは、同じ課題がたくさんある中では、同時に多くの事業に挑戦したほうが世界が変わるスピードを上げられると考えました。それがVCの道に進んだ最初の理由です。

いま寺久保さんが目指すのは、100年以上続く事業を作ることです。渋沢栄一が約500社の創業に関わり、その企業がいまも日本経済を支えていることに、アフリカで生まれているスタートアップとの近さを感じているといいます。ファンドには、マネックスのほか、日本の事業会社や個人投資家も参加しています。参加しているのは、経済的なリターンだけでなく、事業づくりや社会へのインパクトを一緒に追求する人たちです。寺久保さんは、もっと世界に挑戦する日本人を増やしたいと語っていました。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

日本は人口が減っていく国で、じきに1億人を切るでしょう。世界に目を向けている中小企業のオーナーも、たくさんいると思います。50年、100年先を考えたとき、25億人市場のアフリカは非常に魅力的です。

私はアフリカの話を詳しく聞いたのは今回が初めてで、もう少し先の話だと思っていました。しかし、13倍に成長した投資先や、アセットファイナンスで売れなかったバイクが売れるようになった話を聞いて、その認識は変わりました。ぜひ現地を見に行きたいと思っています。

インタビューを振り返る野﨑繁裕 インタビュー
まとめ
対談を経営の視点から振り返ります。

今回のインタビュー動画はいかがでしたか。ここからは、M&Aスタジオ代表・野﨑繁裕(中小企業診断士)が対談を振り返り、明日の経営に活かせるポイントを整理します。

このインタビューから持ち帰る3つの学び

  • 製品が売れないときは、価格を疑う前に「買い手がどうやって買うのか」を観察する
  • 与信の精度よりも、貸した後の接点の細かさが回収率を決める
  • 成長の速度を、自分が慣れ親しんだ市場の尺度で測らない

私は20年ほど地方銀行に勤め、事業を精査し、担保を取って確実に回収できる先に融資する仕事をしてきました。その立場から見ると、与信データのない人にバイクを渡し、毎日少額ずつ返済してもらう事業で返済率98%というのは、にわかには信じがたい数字です。寺久保さんは、その理由を与信判断の精度ではなく「実際はその後のコミュニケーションがキーだった」と説明していました。週6日の返済と、滞ったときの早い判断。金融の成否が、貸すときではなく貸した後に決まるという点は、国を問わず通じる話だと感じます。

もう一つ印象に残ったのは、売れなかったホンダのバイクが、製品そのものを変えずに売れるようになったことです。価格が高いから現地に合わないと結論づける前に、ドライバー300人に話を聞き、所有の構造を確かめたうえで買い方を作り直しています。日本の中小企業が持つ製品や技術も、市場側の仕組みを変えれば、評価がまったく変わる可能性があると考えさせられました。

日本は人口が減り、じきに1億人を切るでしょう。50年、100年先の事業を考えるなら、25億人市場のアフリカは遠い話ではありません。私自身、もう少し先の話だと思っていました。だからこそ、寺久保さんの言う「成長の速度を自分の尺度で考えてはいけない」という言葉を、自戒を込めて受け止めています。

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【売ってから気づいても手遅れ】M&Aで後悔しやすい社長の特徴...あなたは大丈夫?【教えて野﨑さん/第35回】

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