事業承継5件、グループ売上約25億円規模を計画——試験に落ち続けた元銀行員が「売却しない承継先」をつくった理由
この記事でわかること
- ファンドや事業会社と比べた「売却しない承継先」の違い
- 銀行・M&A仲介・不動産ベンチャーを経て、承継の当事者になった理由
- 外部資本に頼らず、自己資金と借入で承継を続ける仕組み
- 創業6年で事業承継5件の承継先と、会社を選ぶときの3つの基準
- 承継後の「事業承継Plus」の中身と、合う会社・合わない会社
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会社の売却先というと、同業などの事業会社か投資ファンドを思い浮かべる経営者が多いはずです。株式会社ファンドライズは、そのどちらとも違います。引き継いだ会社の株式を売らずに持ち続けることを前提とし、2020年の創業から6年で事業承継は5件、今期のグループ売上は約25億円規模の着地を計画しています。代表の清道亮氏は、三菱UFJ銀行、日本M&Aセンター、不動産ベンチャーの取締役を経た元銀行員です。本記事では、清道氏へのインタビューをもとに、「売らない承継先」がどう成り立ち、なぜその形を選んだのかを整理します。
承継先に悩むオーナーの不安に、「売らない買い手」はどう応えるのか?
日本の企業は約350万社あるといわれ、そのうち約127万社が後継者不在とされています。清道氏は銀行員時代から中堅・中小企業を担当し、こうした企業が日本経済を支えていると考えてきました。ファンドライズの主眼は投資や取得ではなく、社会課題に向き合った承継と経営にあるといいます。
具体的には、グループのメンバーが引き継いだ会社に入り込んで直接経営し、売却をしない前提で超長期・次世代視点で保有します。売却したり他の資本が入ったりすると、短期的な数字づくりやコスト削減を求められる。永続的に保有すれば長期的な目線で判断できる。前の売主もそれを前提に経営してきたのだから、その想いを引き継ぐのが自分たちの経営の仕方だと、清道氏は説明します。
ミッションに掲げるのは「日本を動かす、エンジンへ」です。1社ごとの成長には限界があっても、中堅・中小企業の群をつくり、志と力を束ねれば、新たなシナジーで再成長できる。財務リターンだけでなく、事業の継続性や社会的価値を生むことを目指しているといいます。
売り手の社長の不安は、金額と同じくらい「売却後に会社と社員がどうなるのか」にあります。だからこそ承継先の選択肢は多いほど良い。永続保有型のファンドもあるかもしれませんが、ファンドライズの場合は会社自身が保有し続けます。ファンドのように数年での売却を想定しない、「第三の承継先」といえると思います。
支援する側だった元銀行員は、なぜ会社を引き継ぐ当事者になったのか?
3歳から大学卒業まで水泳一筋だった清道氏は、2007年に三菱UFJ銀行へ入行します。勉強は大の苦手で、投資信託の販売などに必要な証券外務員一種の試験には5〜6回落ちたそうです。何度も辞めたいと思いながら、周りの支えで踏みとどまった。競泳で目標タイムに挑み続けた「諦めない心」と、仲間や指導者に支えられて学んだチームの大切さが、その後の土台になったといいます。
転機は滋賀県の草津支店でした。中堅・中小企業の社長と向き合い、社長の考えや決断がそのまま会社の方向性を決める場面を間近で見て、「経営者はかっこいい」と感じるようになります。東京・西池袋支店では、法人営業として表彰を重ねるほどの成果を残しました。良い仲間と切磋琢磨し、「考えるよりもまず動く」スタイルで営業すると周りも動き、支店の数字が上がった。「何をやるかよりも誰とやるか」を強く感じたのは、この時期だといいます。
その仲間が先に転勤したことをきっかけに、清道氏は2017年に日本M&Aセンターへ移りました。その後、不動産系ベンチャーの取締役として内部管理を統括し、自分の決断で人・物・金を動かす立場を経験します。判断の結果を肌で感じるなかで、人が会社を動かし、人が方向性を決めて導く、「経営は人」という考えが固まりました。
2020年7月、1人で財務支援のコンサルティング会社としてファンドライズを設立します。当初、会社を引き継ぎ続けるグループの姿は全く想定していなかったそうです。この間、大学の同級生と共同経営した焼肉店を約1年半で売却した経験から、会社を手放す側の気持ちを知りました。そして支援する側として課題を見てきた一方で、アドバイスする割に自分で経営したことがないという矛盾を感じていた。自ら後継者不在の課題に向き合おうと決め、2024年10月に初めての事業承継に踏み出しました。
会社を売った側に立ったことがある買い手は、実は多くありません。手放すときの寂しさや従業員への責任は、経験した人にしかわからない部分があります。視聴者の社長さんにも知っておいてほしいポイントだと思います。
売却しない前提で、なぜ承継を続けられるのか?
ファンドライズのもう一つの特徴が、自己資金による直接投資です。外部の投資家から株主資本で資金を集めて買収するのではなく、自社の事業の利益と、信用に基づく借入で次の承継を行います。この仕組みにこだわる理由として、清道氏は「時間軸」と「意思決定の自由度」の2点を挙げました。
外部資本に依存すると、短期的な財務リターンを求められがちです。自己資本で進めれば、中長期的に事業と社員に向き合える。事業で出た利益を次の投資へ回し、自己資本を積み上げると金融機関からの支援も大きくなり、さらに承継と再投資を重ねられる。この循環を創業期から意識して続けてきたといいます。外部資本で一気に成長する道からは外れますが、グループとしての理念や方針を固めながら進めることを優先しているそうです。
成長ペースについても、清道氏は数字は結果にすぎないと話します。規模の拡大そのものより、引き継いだ会社の想い・文化・人・取引先を守り、期待に応えられる組織であり続けることが優先です。承継のたびに仲間は増えるが、背負う人生も増える。責任と成長をセットで感じているといいます。
どんな会社を引き継ぎ、どんな会社には向かないのか?
グループの業種はさまざまです。2024年10月の1号案件は、1955年創業で全国150店舗の小売店にアクセサリーを供給する株式会社中村アクセサリー商会で、知人の仲介担当者からの紹介でした。1980年創業で地域密着45年の尼崎スイミングスクールを運営する明光産業は、兵庫県出身で幼い頃から知っていた清道氏が自ら手を挙げて引き継ぎました。食品工場で着るユニフォームや頭巾を中国で製造し、日本で販売する株式会社ベセスと上海倍思衛生用品有限公司は、日本M&Aセンター時代の同期からの紹介です。直近の5月には、オーナーが体調を崩した横浜市あざみ野の保育室「あざみ野ベビールーム」を、顧問税理士からの連絡を受けて1ヶ月以内に引き継ぎました。
承継する会社を決めるとき、清道氏がまず見るのは人です。前オーナーが社員への想いや承継の必然性を理解し、責任を全うするために引き継ぎたいと考えているか。そうでなければ自分たちが引き継ぐ意味がないといいます。次に、その事業が地域やお客様から本当に必要とされているかという継続価値。これがグループ経営でのシナジーにつながります。そして、実際のオペレーションを自分たちで担えるかどうかも確認しています。
相性が良いのは、雇用・社名・文化を残し、しっかり引き継いでほしいと考えるオーナーです。承継後も関係は終わらず、会社の成長を一緒に見届け、相談し合える関係でありたいと話します。一方、高く売りたい会社や、一気に資金を入れて成長したい会社には、自社の手の届く範囲では対応できないと、清道氏ははっきり語りました。
自社に向いていない会社を正直に言える買い手は、わりと信用できるのではないかと思います。お話を聞いていると、単にお金を借りて会社を買って儲けるのではなく、経営者の想いをしっかり見たうえで、事業の継続価値もそろばんで見定めている。お金だけが決め手ではないオーナーは多いですが、お金を追求することも悪いことではありません。ニーズはさまざまです。
引き継いだ後、会社には何が起きるのか?
ファンドライズは承継後の取り組みを「事業承継Plus」と呼んでいます。1点目は経営人材の派遣・配置で、グループの考え方や理念が浸透したメンバーが会社に入り込んで経営します。2点目は、現在準備中というバックオフィスの統合と経営の見える化です。グループ全体のバックオフィスを集約して生産性を高め、各社の状況や社員数、評価制度を把握することで課題を明確にし、経営基盤をつくっていく考えです。
清道氏が特に重視しているのが、3点目のグループ間の人材交流です。引き継ぐ前の中小企業は、同じ社長が長く経営してきたケースが多い。社長も循環させて1人の属人性を取り払い、違った目で経営することで、今の時代やニーズに合ったサービスを地域やお客様に届けられるといいます。
初めて社員を迎えたとき、面接で聞いた「今の会社では将来が見えない」「もっと挑戦したい」という言葉を受けて、社員が将来を描き、挑戦し成長できるステージを提供する会社にすると決めたそうです。共に働く社員や前オーナー、引き継いだ会社の社員に「清道と働いて良かった」と言ってもらうこと。それが今も清道氏の大切にしている軸です。今後はIPOも視野に入れ、引き継いだ会社をグループとして次世代にバトンタッチできる形をつくろうとしています。清道氏は、承継はゴールではなく、会社が再び成長するスタートラインだと語りました。
インタビューまとめ 対談を経営の視点から振り返ります。
今回のインタビュー動画はいかがでしたか。ここからは、M&Aスタジオ代表・野﨑繁裕(中小企業診断士)が対談を振り返り、明日の経営に活かせるポイントを整理します。
このインタビューから持ち帰る3つの学び
- 承継先を選ぶときは、金額と同じくらい「売却後に会社と社員がどうなるか」を確かめる
- 売る側・支える側の両方を経験した人ほど、引き継ぐ側の責任の重さを知っている
- 成長のスピードを抑えてでも、判断の時間軸を自分で持てる資金の形を選ぶ
進行中のM&Aの条件や、
事業の進め方について
心配ごとはありませんか?
売る・売らないのどちらを選んでも、Mスタにできることがあります。仲介はせず、成功報酬も受け取りません。だから「売らない」という結論も含めて、忖度なくお答えできます。
【売ってから気づいても手遅れ】M&Aで後悔しやすい社長の特徴...あなたは大丈夫?【教えて野﨑さん/第35回】



