個別株はわずか5%――超富裕層を20年見てきた金融のプロに聞く、会社売却後に「減らさない」資産の置き方

  • 公開日2026年09月29日

この記事でわかること

  • 10億円超の資産家の多くが「攻め」より「守り」を優先する理由
  • 債券利回り4〜5%で生活費を賄う、守りの資産の中身
  • 個別株を5%程度に抑え、利金で下落局面を拾う攻め方
  • 資産形成中の人がそのまま真似してはいけない理由と、通貨分散の考え方
  • 会社売却で大金が入った直後に、やってはいけないこと

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会社を売却して、手元に大きな資金が入った。そのお金を、どう置けばいいのか――。M&Aで会社を譲渡した経営者から、こうした資産運用の相談が寄せられることは少なくありません。国内の大手証券会社から外資系のプライベートバンクに移り、シンガポールを拠点に20年以上、インドネシアなど東南アジアの超富裕層と向き合ってきた宮地さんに話を聞くと、返ってきたのは「お金持ちは株で攻めている」というイメージとは正反対の答えでした。何十億円という資産を持つ人たちが最も大事にしているのは、増やすことではなく減らさないこと。その考え方と具体的な資産の置き方、そして大金が入った直後の動き方を、インタビューから整理します。

なぜ超富裕層は「攻め」より「守り」を優先するのか?

宮地さんによれば、富裕層の資産運用は「ほとんど守りが中心」で、派手に勝負している人は本当に少ないといいます。日本円で10億円を超えるような人は、おおむねディフェンシブな印象だそうです。

理由はシンプルです。すでに十分な資産があるため、大きく儲ける理由がない。一方で、一度大きく減らすと、取り戻すのは想像以上に大変です。資産が半分になれば、元に戻すには倍にしなければならない。そうなると取り戻そうとしてリスクを取り、さらに悪い方向へ走ってしまう。富裕層はこの構造を理解しているからこそ、額が大きいほど「減らさない」ことの価値が増すと考えている、というのが宮地さんの見立てです。

もちろん、これから資産を築く段階では、リスクを取って大きく増やす必要がある場合もあります。宮地さん自身も、国内の大手証券会社から外資系プライベートバンクへ移るというリスクを取ってきた一人です。守りが中心になるのは、あくまで一定以上の資産を築いた後の話です。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

M&Aで会社を譲渡した社長から、その後の資産運用について相談を受けることは非常に多いです。自社株が現預金に変わるわけですから、当然のことだと思います。私の友人を見ても、たくさん資産を持っている方ほどディフェンシブな印象があります。「お金持ちは攻めている」というイメージは、実態とはむしろ逆なのかもしれません。

守りの資産は、具体的に何にどう置かれているのか?

宮地さんがざっくりと示した内訳は、大半が守りの資産です。ドル建ての国債や社債、そして低コストのインデックスETFが中心で、攻めは全体を大きく揺らさない範囲の一部にとどめます。宮地さんが運用するファンドでも、国債とインデックスがほとんどで、個別銘柄は5%程度しか保有していないといいます。

守りといっても、債券をただ寝かせているわけではありません。ドル建ての債券であれば利回りは4%、期間の長いものなら5%ほど。たとえば1,000万米ドルを5%で運用すれば、年に50万米ドル、日本円で約8,000万円の利息が入ります。一般的な生活であれば、資産を取り崩さずに暮らせる水準です。

そのうえで、利息のなかで余った分を使って積極的にリスクを取る。元本には手をつけず、守りの資産が生んだ余剰資金で攻めるのが基本の型です。

ほかにも、以前勤めていた会社の株など、売るつもりのない上場株を担保にしてドルを低金利で借り、運用する人もいます。宮地さんの会社では提携先を通じて1%未満の金利でドルを借りられるサービスを提供しており、借りたドルで4〜5%近い国債を買えば、それだけで利ざやが出ます。もう少しリスクを取れる人はETFなどに投資しますが、宮地さんも認めるとおり、これはレバレッジをかけた運用になります。

攻めで失敗する人と、うまくいく人は何が違うのか?

失敗の典型は「攻めすぎ」だと宮地さんは言います。自信を持って一部の資産に大きく賭ける。たとえば今であれば、AI関連企業の個別銘柄に集中するようなケースです。短期間で急激に値上がりすることはありますが、その逆もあります。

うまくいく人は、守りを淡々と続けています。相場が大きく下がっても、守りのままであれば土台は崩れません。そして、債券の利金を重ねてできた余裕資金で、明らかに下げすぎたタイミングに少しリスクのあるものを買っていく。宮地さんの顧客にもそうした人がいて、宮地さん自身も個人的にこの形でリスクを取っているそうです。

目安として挙がったのが、S&P500が20日移動平均線から10%以上下がった局面です。2025年4月がその例で、過去を見ても3〜4年に1回程度の水準だといいます。ただし、「単純に下がったから買えばいい」というものではないと宮地さんは念を押します。余剰資金であれば、2026年3月のように20日移動平均線から5%ほど下がった程度でも購入を検討してよい、というのが宮地さんの考えです。

資産形成中の人や日本在住の人は、どこまで取り入れればいいのか?

話を聞いて「自分も債券中心にすればいいのでは」と考える人もいるでしょう。しかし宮地さんは、ここには注意が必要だと言います。超富裕層と一般の人とでは、資産規模も目的も、そして特に時間軸がまるで違うからです。

資産を築いている途中の人は、増やす必要があります。全部を守りにすれば増えないため、リスクは取りにいく。大事なのは、守りと攻めの比率を自分の目的に合わせて決めることです。立場や資産規模、アセットクラスによって戦い方は変わるため、ステージごとの戦い方をおぼろげにでもイメージしておくとよいといいます。特に若く、これから資産を増やしたい人であれば、資産のほとんどをS&P500のETFやいわゆるオルカンのETFに投資していくほうがいい、というのが宮地さんの考えです。インタビューでは、年7%で回せば10年で倍という複利の考え方も、十分に現実的だと語られました。

通貨の分散も、日本に住む人にとって無関係ではありません。海外暮らしの長い宮地さんは外貨が多くなりがちですが、外貨だけではポートフォリオにならないとして、日本円を3割ほど、外貨を7割ほど持っています。比率は考え方や生活の拠点によって変わるものの、日本に住んでいる人も日本円だけでなく通貨の分散を図るべきではないか、というのが宮地さんの見方です。

住む場所についても、富裕層であれば、短期間でも一度海外に試しに住んでみることを考えていいと宮地さんは勧めます。宮地さん自身、シンガポールを最も落ち着く場所としながら、日本でもそれなりの日数を過ごし、拠点を複数持って生活しています。拠点を複数持つことと通貨を分散して持つことは、完全に同じではないものの近い考え方だといいます。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

私は以前、地方銀行に勤めていました。20年ほど前はゼロ金利の時代で、投資信託を売ってこいという雰囲気はありましたが、宮地さんのような話をする人はあまりいませんでした。しかし振り返ると、あの頃からS&P500やオルカン的なものを買っていたら、結構儲かっていたはずです。シンプルな話ですが、信じるべき話なのだと思います。

会社売却で大金が入った直後、何をしてはいけないのか?

最後に宮地さんが挙げたのは、「急いで全部を動かさない」ことです。投資も、そのほかのことも、少しずつ経験しながらゆっくり進めればいい。最初にやるべきは守りで、攻めは後からで問題ありません。まず債券に投資し、利金が出て余裕があれば、ETFや個別株でリスクを取る。この順番を守ることが大切だといいます。

大きなお金を一度に手にすると、プライベートバンカーなど多くの人に相談することになります。そこでありがちなのが、リターンが非常に高く見える商品です。しかし、リスクゼロで10%という商品は当然存在せず、そうしたものは手数料も高い。投資するなら、必ず自分で理解したうえで判断すべきだと宮地さんは強調します。

手数料について宮地さんは、ウォーレン・バフェットが言うように、S&P500を中心とした低コストのポートフォリオを勧めています。S&P500の平均リターンは年10%少し。手数料が2%なら、リターンの2割を手数料として払うことになり、10年で単純に積み上げれば20%分にもなります。ここで大きく差がつくのです。

富裕層であれば、まず守りから入り、順番を間違えない。若い人であれば、守りだけでは資産が増えないため、ETFなどで年約10%のリターンを取りにいき、余裕資金の中で続けている積み立てを絶対にやめない。立場によって取るべき戦略は異なりますが、自分が理解できる範囲で、順番を守って動くという点は共通しています。

野﨑繁裕
野﨑の視点M&Aスタジオ代表・中小企業診断士

手数料の話は本当に本質的で、視聴者の皆さんには肝に銘じていただきたい内容です。1年ならそれほど影響がなくても、10年・20年・30年と続けば、かなりのインパクトが出てきます。

インタビューを振り返る野﨑繁裕 インタビュー
まとめ
対談を経営の視点から振り返ります。

今回のインタビュー動画はいかがでしたか。ここからは、M&Aスタジオ代表・野﨑繁裕(中小企業診断士)が対談を振り返り、明日の経営に活かせるポイントを整理します。

このインタビューから持ち帰る3つの学び

  • 資産が大きいほど、増やすことより減らさないことの価値が上がる
  • 攻めの原資は元本ではなく、守りの資産が生んだ余剰に置く
  • 大きなお金が入った直後こそ、急がず守りから順番に動かす

「お金持ちは株で攻めて資産を増やしている」。多くの人が抱くこのイメージは、超富裕層を間近で見てきた宮地さんの話で大きく覆されました。資産が大きいほど、増やすことより減らさないことの価値が上がる。一度半分になった資産を元に戻すには倍にしなければならないという単純な算数が、彼らの運用の土台にあります。

M&Aで会社を譲渡すると、自社株という形で持っていた資産が一度に現預金へ変わります。その瞬間から周囲の様々な提案が寄せられ、判断を急がされる場面も少なくないはずです。宮地さんが最後に語った「急いで全部を動かさない」という言葉は、事業を手放したばかりの経営者にこそ響くものだと感じます。まず守りを固め、守りが生んだ利金で攻める。攻めの原資を元本ではなく余剰に置くことで、相場が大きく揺れても土台は崩れません。

一方で、この型は誰にでも当てはまるわけではありません。資産形成の途中にある人は増やす必要があり、守りと攻めの比率は資産規模や目的、時間軸によって変わります。大切なのは、自分がいまどのステージにいるのかを知り、理解できないものには手を出さず、手数料という見えにくいコストにも目を向けることです。会社を売った後の資産運用は、経営で培ってきた「順番を間違えない」判断力が、形を変えて問われる場面なのだと思います。

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