1ヶ月で2グループ・計4件のM&A——食品添加物の旭東ホールディングスが「空白の象限」を埋めて裏方インフラを広げる理由
この記事でわかること
- 2026年3月に1ヶ月で2グループ・計4件を譲り受けた背景
- 「加工食品になくてはならない存在」になるための4つの要素
- 粉体・液体×甘い・しょっぱいの4象限で、空白を埋める買収基準
- 異業種の機械卸を迎えた狙いと、発表後1〜2週間で届いた問い合わせの中身
- ファンドのロールアップとは違う、事業会社主導のグループ経営
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食品添加物メーカーの旭東化学産業を中核とする旭東ホールディングスは、2026年3月、福南グループとUNOグループの2グループから計4件の譲り受けを、1ヶ月のうちにクロージングしました。デューデリジェンスや金融機関とのやり取りを期日までに終えなければならず、代表の田口貴之さんは「非常に大変でした」と振り返ります。グループは持株会社を含む7社体制となり、そのうち5社がM&Aで加わった会社です。裏方の企業がなぜM&Aで領域を広げるのか。何を基準に相手を選んでいるのか。田口さんへのインタビューから整理します。
なぜ食品添加物メーカーが、M&Aで事業領域を広げるのか?
旭東化学産業は、田口さんの祖父が1955年に創業した会社です。CMC(カルボキシメチルセルロース)という食物繊維系の素材を輸入し、卸売したのが原点でした。現在は、海藻や豆の胚皮から取れる抽出物などの天然物を使い、アイスクリームの安定剤、ゼリーのゲル化剤、製菓・製パン向けの乳化起泡剤や乳化油脂などを製造しています。食品メーカーが大量生産を安心・安全に行い、消費者に届けるために欠かせない素材です。
M&Aを本格化させたきっかけは、田口さんが社長に就任した2021年の挨拶回りでした。取引先のオーナーから「旭東さんには後継者がいていいな」「うちにはいないから」という声を何度も聞いたのです。調べていくと、食品の副原料や原料の業界でも高齢化が進んでおり、経営者の年齢は田口さんたちの認識で平均68歳ぐらいでした。後継者のいない会社が多いことを知り、そうした企業の受け皿になることを考え始めます。
構想の結論は、「加工食品にはなくてはならない存在になろう」というものでした。田口さんは、そのために4つの要素が必要だと考えています。美味しさを作ることをサポートできること、安心・安全な衛生環境と体制があること、原料や素材を安定的に供給できること、そして価格が大きく変動せず安定していることです。これを一から事業を立ち上げて満たすには時間がかかります。そこで、M&Aでグループ企業群を作るという方針が根幹になりました。
一方で、旭東グループは自社ブランドの最終商品を作る川下には出ないと決めています。自社商品を展開すれば、顧客である食品メーカーの商売を邪魔してしまうからです。あくまで食品メーカーを支える裏方として領域を広げる。これが買収戦略の前提になっています。
旭東化学産業さんは、最終商品を作る会社から見ればすでにインフラのような立ち位置です。ただ、そこにとどまらず、もっと幅広い分野で影響力を発揮していきたいとなると、一から立ち上げるのでは時間がかかります。経営者の高齢化が進み、事業承継の真っただ中にある業界だと考えれば、「裏方インフラNo.1」というゴールに向けて、M&Aは戦略的に有効な手段だと思います。
買収先は、どんな基準で選んでいるのか?
田口さんは、買収先を考えるための地図を2つ持っています。1つ目は、縦軸に顧客である食品メーカーの業種・業態、横軸に旭東グループが担う5つの裏方事業を置いたマトリックスです。一番左の「食品添加物・副原料」はグループが最も得意とする領域で、すでに幅広い業界の役に立っています。しかし、ほかの4分野にはまだ空白が多く残っています。田口さんはこれを「オセロ・パズル」と呼び、マスがすべて埋まった状態が「加工食品産業のインフラ」だと説明します。
2つ目は、添加物・副原料の中をさらに分けた4象限です。粉体か液体か、甘いもの向けかしょっぱいもの向けかの2軸で、これまで旭東グループは「粉体×甘い」「液体×甘い」「粉体×しょっぱい」の3つを持っていました。足りなかったのが「液体×しょっぱい」です。
この空白を埋めたのが、福南グループからの譲り受けです。1件目は、東京・新小岩でタレ・ソースやドレッシングなどの液体調味料を作る福南食品工業の全株式の譲り受けです。食品メーカー向けの販売が中心で、顧客から口頭で聞いた味やクオリティを形にできる開発力と製造力を持っています。2件目は、福南エンタープライズのカラギーナン事業の事業譲渡です。海藻から取れる増粘多糖類のカラギーナンを原産国から輸入し、国内の食品メーカーに販売する貿易業で、旭東グループ自身も広く使っている原料です。将来的に顧客にコストメリットを示せれば、提案にもつなげられると田口さんは見ています。
異業種の機械卸を、なぜグループに迎えたのか?
もう一方のUNOグループ(UNO社・TELME JAPAN社)は、ジェラートの機械設備を食品事業者向けに販売する会社です。原料メーカーから見れば異業種ですが、田口さんには明確な理由がありました。原材料を扱っていると、顧客の製造設備や機械の課題にぶつかることが多いのです。良い原材料を使おうとしても、機械に順応するように作らなければなりません。その積み重ねで、旭東グループには機械の知見も蓄積されていました。その知見を、機械卸の分野でも活かせると考えたのです。
UNOの会長の山﨑氏は、昔の大阪万博の頃、日本でまだなじみのなかったジェラートをイタリアから持ち込み、日本に根付かせた業界のパイオニアです。旭東グループは日本ジェラート協会に深く関わってきたため、以前からUNOの事業をよく知っていました。UNOが扱う縦型のバッチフリーザーは全国1,000店舗以上に導入されており、導入店舗には保守メンテナンスや部品を供給しています。さらに、イタリアから輸入したジェラート用の安定剤も納めています。店舗づくりやメニュー開発まで手がける創業支援も行う、手厚いコンサルティング型の会社です。
グループ入りで期待しているのは、原料の安定供給と価格の安定性です。旭東化学産業はFSSC22000という食品安全の認証を、苦労して取得しています。田口さんは、この認証を食品業界では世界最高水準の規格だと説明し、より安心な安定剤を供給できる体制が整っていると話します。実際に、4月1日に取得のプレスリリースを出してから1〜2週間で、UNOの顧客から「旭東グループの安定剤を使えないか」という問い合わせが多く届きました。採用までにはプロセスが必要ですが、早くも反応が出ています。
UNOさんはイタリアから安定剤などを仕入れていて、旭東化学産業さんは国内で作ることができます。すべてとは言わないまでも、何割かを旭東化学産業さんの添加物に切り替えれば、明らかに相乗効果が出ます。ジェラートの機械が売れれば売れるほど、安定剤も出ていく。非常に分かりやすいシナジーだと思います。
ファンドのロールアップと、何が違うのか?
田口さんは、グループの目指す姿を「スイミー戦略」と呼んでいます。5歳の長男に絵本『スイミー』の読み聞かせをしていて、はっと思いついたそうです。加工食品を裏方として支える中小企業は数多くあります。その一社一社が個性や文化を活かしながら集まり、大きな魚のようになれば、食品メーカーに色々な分野・角度から役に立てる。田口さんは「中小企業の文化を残しながら、それぞれ個社の特徴を活かしながら」、加工食品のメーカーを陰ながら支援するグループになりたいと語ります。
同業種の会社を次々に買収して相乗効果を狙う点では、ファンドのロールアップ戦略と似ています。違いは、旭東グループが事業会社だという点です。技術力と知見を持った人材が揃い、その人たちが意思を持って経営に参画しています。たとえば、2010年に加わった香料メーカーのコウシン化学工業とは、同社の香料と旭東の安定剤を使って最終商品の試作品を一緒に作り、顧客のもとへ同行して提案することもあります。事業会社同士が仲間として動けることが、田口さんの考える強みです。
譲渡後の体制にも、その考え方が表れています。UNOでは、山﨑会長の息子である山﨑友樹氏が、株主ではなくなった後も社長として残りました。これからもジェラートやスイーツの業界を盛り立てていきたいという本人の意思に、田口さんも共感し、一緒に取り組んでいくと話します。グループ化してから従業員の表情が生き生きしてきたことについても、田口さんは「私の力じゃなくて、各現場の人たちの力」だと言います。グループは7社のうち5社がM&Aで加わった会社です。それでも、各社の優秀な従業員が方向性さえ議論すれば動き、それ以上のものを作ってくれる。だから自分だけが手を動かす必要はないのだと語ります。
この仕事をしていると、譲渡の理由にはいろいろあります。その中には、オーナー社長という立場ではなく、グループの中で雇われる身として頑張りたいというニーズが確かにあります。山﨑友樹さんも、そういう想いでスイミー戦略に共感されたのだろうと思いました。
ファンドを否定するわけではありませんが、オーナー会社の社長だからこそできるM&A、そこで働く従業員だからこそできるM&Aがある。旭東グループの動画で見る従業員の表情からは、そう感じます。
インタビューまとめ 対談を経営の視点から振り返ります。
今回のインタビュー動画はいかがでしたか。ここからは、M&Aスタジオ代表・野﨑繁裕(中小企業診断士)が対談を振り返り、明日の経営に活かせるポイントを整理します。
このインタビューから持ち帰る3つの学び
- 自社の事業領域を図にすると、次に必要な相手は「空白」として見えてくる
- 顧客が困っているのは自社商品の周辺にある。そこまで支えれば異業種も強みになる
- 顧客と競合しない立ち位置を守ることが、裏方企業の買収戦略の前提になる
進行中のM&Aの条件や、
事業の進め方について
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