会社を売ることを、社員や家族にどう伝える?|迷う社長の気持ちと、打ち明ける順番
打ち明ける順番の基本は、配偶者がいちばん先、幹部社員はそのあと、社員は契約が終わってからです。どの相手にも共通して大切なのは、できるだけ早めに、正直に、敬意を持って伝えること。黙って進めて後から知られるのが、いちばんこじれます。
- 配偶者には、動き出す前に話す。不安には気持ちではなく数字で答える
- 家族の反対は「配偶者・子ども・親族株主・先代」で理由も入り口も違う
- 社員への開示は、相手が決まったあとが一般的。伝え方の準備に時間をかける
会社を売ることを考え始めても、社員にはもちろん、家族にもまだ言えない。言ったらどう思われるか。反対されたらどうするか。そもそも、自分の気持ちがまだ固まっていない。そうして一人で抱え込んでいる社長は、少なくありません。
以前、初めてオンラインで面談した社長が、身元が知られるのが不安で、マスクをしたまま話し始められたことがありました。会社を売ることは、それくらい誰にも話しにくいことなんです。
この記事では、これまで多くの譲渡に立ち会ってきた立場から、迷っている気持ちとの向き合い方と、家族や社員に打ち明ける順番をお伝えします。
CONTENTS
迷っているうちは、まだ動かなくていい
ご相談いただく会社の多くは、業績が順調な会社です。業績は良いのに、経営に疲れた。周りの社長が会社を売ったと聞いて、気になり始めた。そうした気持ちから考え始める方が多くいます。
売りたい気持ちと、まだ続けたい気持ちが行き来するのは、自然なことです。揺れている状態のまま、しばらく考えていいと私は思っています。
気をつけてほしいのは、揺れているからといって、すぐに仲介会社へ問い合わせて、売るための手続きに進んでしまうことです。あとから、自分は別に売りたいわけじゃなかったと気づいて、契約を解除する方もいます。
揺れているなら、半年から1年半くらいは、揺れながら考えてもいいと思います。専門の会社に相談することと、アドバイザーと契約することは同じではありません。
動画で見る業績は好調、でも経営に疲れた…会社売却を考え始めた社長へ【教えて野﨑さん】
▶ 18:18 から再生されます打ち明ける順番の目安
配偶者、子ども、幹部社員、社員、取引先。相手によって、社長との距離も、知っている情報の量もまったく違います。だからこそ、伝える時期も伝え方も、相手ごとに分けて考えます。
| 相手 | 時期の目安 | 伝えるときのポイント |
|---|---|---|
| 配偶者 | 時期の目安売ると考え始めたら、動き出す前に | 伝えるときのポイント生活がいちばん大きく変わる相手。最初に話す |
| 子ども・幹部社員 | 時期の目安買い手が決まり、基本合意を結んだあとが多い | 伝えるときのポイントほかの社員とは分けて、先に説明して納得してもらう |
| 社員 | 時期の目安株式を譲渡し、代金の決済が終わったあとが一般的 | 伝えるときのポイント買い手と相談して、伝え方と順番を準備しておく |
| 取引先 | 時期の目安譲渡のあとに挨拶することが多い | 伝えるときのポイント契約で事前の通知が必要な場合や、取引が1〜2社に偏っている場合は、事前に伝える |
※ここで挙げた時期は一般的な目安です。会社の状況や買い手との約束、取引先との契約によって、適切な時期は変わります。
配偶者は毎日一緒に暮らしている方です。会社を売れば、収入も暮らしも変わります。だから、売ると考えたら、動き出す前に最初に話してください。
どこで、誰に打ち明けるのが良いかは、会社によって違います。正解がひとつに決まっているわけではありません。全体を見ながら、その会社にとっていちばん良い順番を考えるのが、アドバイザーの大事な仕事だと思っています。
動画で見る業績は好調、でも経営に疲れた…会社売却を考え始めた社長へ【教えて野﨑さん】
▶ 20:20 から再生されます家族の反対は、4つに分けて考える
会社を売る話を最後に止めるのは、買い手でも条件でもなく、家族であることが本当に多いと感じています。ただ、ひと口に家族と言っても、反対する理由は立場によって違います。
| 誰が | 反対の奥にあるもの | 話の入り口 |
|---|---|---|
| 配偶者 | 反対の奥にあるもの暮らしが変わる不安。売ったあと、夫や妻がどうなるのかという心配 | 話の入り口数字で話す。売ったあとの暮らしの見通しを示す |
| 子ども(後継者候補) | 反対の奥にあるもの継ぐつもりだったのに、という気持ち。自分の人生の予定が崩れること | 話の入り口説得しない。本人の意思を聞き、これからの人生の計画を一緒に考える |
| 親族の株主 | 反対の奥にあるもの親から継いだ会社を手放すことへの抵抗と、お金の問題 | 話の入り口持っている株にどれくらいの価値があるのかを、数字で示す |
| 先代(親) | 反対の奥にあるもの会社は自分そのもの、という思い | 話の入り口理屈で説き伏せようとしない。早めに、正直に、敬意を持って話す |
配偶者には数字、子どもには人生の計画、親族の株主にはお金、先代には敬意。同じやり方で4つの扉を開けようとすると、うまくいきません。
実際には、2つ3つの立場が重なっていることがよくあります。当てはまるものが多くても、心配しすぎなくて大丈夫です。事前に分かっていれば、順番を考えて整理できます。
動画で見る会社売却を阻む「家族の反対」4類型と対処法【教えて野﨑さん】
▶ 2:52 から再生されますいちばん避けたいのは「黙って進めて、後で爆発」
話がまとまってしまえば、家族も反対しないだろう。そう考えて、打ち明けるのを先延ばしにする社長がいます。でも、実際はその逆になりがちです。
基本合意を結び、買収監査が始まると、もう隠し通すことはできません。契約の直前に家族が反対すると、話はそこで止まってしまいます。家族との関係が悪くなるうえに、買い手にも迷惑がかかります。
株主が兄弟で分かれていて、日頃あまり話していなかった会社がありました。社長は奥様には最初から話していましたが、ほかの株主の方には、最初からは開示しませんでした。買い手に当たって、この条件で買ってもらえそうだという見通しが立った段階で、基本合意の前にお話ししました。いくらで売れて、ご自身にいくら入り、売ったあとどんな暮らしになるか。それが具体的に見えていれば、納得していただきやすいと考えたからです。
※個別のケースです。どの会社でも同じ結果になるわけではありません。
動画で見る会社売却を阻む「家族の反対」4類型と対処法【教えて野﨑さん】
▶ 10:45 から再生されます幹部社員と社員には、どう伝えるか
幹部社員に打ち明けたときの反応は、社長との関係によってさまざまです。あっさり受け止めてくれる人もいれば、強く反発する人も、喜んでくれる人もいます。
会社の要になっている人が辞めてしまうと、会社の価値が下がることもあります。そのため、伝え方と時期は、アドバイザーや買い手と相談しながら慎重に決めます。反対があっても、多くの場合は、きちんと話し合うことで納得してもらえています。
幹部の方の反発を、役員賞与や退職慰労金という形で報いることで収めたケースもあります。ただ、これは数としては少なく、ほとんどは話し合いで納得していただけます。
社員の方への開示で、実際に辞めた人が出たのは、私がお手伝いしたケースでは数%ほどでした。丁寧に説明して、社長も会長などの形でしばらく残るケースが多いので、心配しすぎなくていいと思います。
※個別のケースです。どの会社でも同じ結果になるわけではありません。
動画で見る腹心の幹部がM&Aに大激怒!リアルな修羅場と解決策【M&Aを漫画で解説】
▶ 4:21 から再生されます打ち明ける前に、社長がしておきたい3つのこと
自分の会社の相場観を持つ
いくらくらいで売れそうかの目安があると、家族にも、売ったあとの暮らしを具体的に話せます。
配偶者と一度話してみる
人生を共にする人だからこそ、決める前から一緒に考える。
中立な相談相手を持つ
売ることを前提にしない相手に、家族にも社員にも言えないことを話してみる。
仲介会社と話すと、相手は契約がほしいので、どうしても売る方向の話になりがちです。私でなくても構いません。知り合いの社長でもいい。この人なら話せそうだ、という相談相手を一人持っておいてほしいと思います。
動画で見る業績は好調、でも経営に疲れた…会社売却を考え始めた社長へ【教えて野﨑さん】
▶ 26:54 から再生されます一人で抱え込まず、話す順番から一緒に考える
会社を売るかどうかを決めることも、それを家族や社員に伝えることも、社長がこれまでの経営で積み重ねてきた人間関係と向き合うことです。正解の順番が決まっているわけではありません。
M&Aは専門用語が並ぶので、テクニカルな仕事だと思われがちです。でも、アドバイザーのいちばん大事な仕事は、関わる人たちの思いを調整することだと思っています。家族がこじれている、という相談もたくさん受けてきました。
家族に言えなくても、まずは話してみてください。売るかどうか決める前でも、売らないと決めたあとでも構いません。
よくある質問
Q家族に話す前に、専門家に相談してもいいですか?
A構いません。誰に、どの順番で、どう話すかを先に整理しておくと、家族とも落ち着いて話しやすくなります。
Q社員に知られずに、売却の検討を進めることはできますか?
A検討の段階では、社員に知られないよう進めるのが一般的です。資料のやり取りや面談の場所なども、アドバイザーと相談しながら配慮します。
Q配偶者が反対したら、売るのはあきらめるべきですか?
Aすぐにあきらめる必要はありません。反対の多くは不安から来ています。売ったあとのお金や暮らし、社長の次の過ごし方を具体的に示すことで、不安が和らぐことがあります。
Q幹部社員が辞めると言ったら、売却の話はなくなりますか?
A買い手にとって大切な人であれば、条件が変わることはあります。ただ、多くの場合は話し合いで納得してもらえています。伝える前に、アドバイザーと進め方を準備しておきましょう。
※契約内容や法律・税金の扱いは、弁護士や税理士などの専門家と確認しながら進めてください。
FIRST STEP
誰にも言えないことから、
まず話してみませんか
売るかどうか決めていなくても、家族にまだ話していなくても構いません。誰に、いつ、どう伝えるかも含めて、社長の状況に合わせて一緒に整理します。初回のご相談は無償です。
このテーマのQ&A
関連する記事
-
解説記事
理想の買い手でないと嫌だと思ってしまいます。こだわりすぎでしょうか?
2026.10.14
-
解説記事
売却したあと、社長はどれくらい会社に残ればいいですか?
2026.10.14
-
解説記事
会社を売ったあと、社員や会社の雰囲気はどう変わりますか?
2026.10.14
-
解説記事
幹部社員に打ち明けたら猛反発されました。キーマンが辞めたら会社の価値は下がりますか?
2026.10.14
-
解説記事
調印式の直前に、やっぱり売るのをやめたくなりました。撤回できますか?
2026.10.14
-
解説記事
先代(親)が売却に反対しています。どう話せばいいですか?
2026.10.14
-
解説記事
業績は好調なのに、経営に疲れました。この気持ちで売却を考えてもいいのでしょうか?
2026.10.13
-
解説記事
社員には、いつ、どの順番で伝えればいいですか?
2026.10.13
-
解説記事
妻や子どもに会社の売却を反対されています。どう進めればいいですか?
2026.10.13



